桜満開の4月中旬、群馬県吾妻郡東吾妻町のシンボル的な山である岩櫃山に登りました。
毎年春頃には奇峰の宝庫である群馬県の西上州を訪れてはスリルを感じさせる山を登り、ちょうど桜満開の時期を狙っているので、西上州の奇峰と桜のコラボ写真を撮るのを楽しんでいます。
さて、今回訪れた岩櫃山ですが、西上州以外に妙義山みたいな険しく見る人を圧倒させるような山はないのかと調べていたところ、東吾妻に妙義山のような奇岩怪石から成る山が存在している事を知りました。
低山ながらスリルを味わえる岩櫃山は山頂からの展望も素晴らしいと評判が良く、更に周辺には多くの史跡もあり、登山と同時に史跡探訪も出来る山となっています。
岩櫃山には登山口が2つあり、今回は一番険しい上級者向けの密岩登山口から登り、この日は岩櫃山以外に訪れたい箇所があったので、山頂を経由に一周する短いコースを選択しました。
1000m満たない山ですが、意外にも危険ヶ所が多かったので、写真を交えながら登山道の様子や山頂からの絶景及び周辺の史跡等を紹介したいと思います。
- 岩櫃山のアクセス、駐車場
- 登山コース
- 岩櫃山とは?
- 古谷登山口~密岩登山口
- 密岩登山口~天狗の架け橋
- 核心部、天狗の架け橋
- 天狗の架け橋~岩櫃山山頂
- 岩櫃山山頂からの景色
- 岩櫃山山頂~古谷登山口
- 岩櫃山ゆかりのスポット
- おすすめ温泉
- 最後に
岩櫃山のアクセス、駐車場
アクセス
最寄りのインターは、関越道渋川伊香保IC
インターから国道17、353、145号を通り、約40分で到着。
電車の場合はJR吾妻線郷原駅若しくは群馬原町駅下車。
駐車場
古谷登山口には10台ほど(左)平沢登山口には70台ほど(右)
それぞれ無料駐車場で、トイレも完備されています。
登山コース
登山道は大きく分けて五つあり、様々なルートでの登山が可能です。
今回は古谷登山口から密岩通り、赤岩通りを経て古谷登山口に戻るルートを選択しました。
岩櫃山とは?
東吾妻町に聳える標高802mの岩櫃山は、まるで妙義山を思い起こすような奇岩怪石から成る山容が特徴で、低山ながら堂々たる風貌は見る人を圧倒させる事から吾妻八景を代表とする景勝地として親しまれています。
山名の由来は読んで字の如く岩の櫃という意味で、櫃とは蓋が上に開く大型の箱やお米を入れるお櫃を意味し、狩りで訪れた源頼朝がこの岩山を見て、米を入れるお櫃に似ていると言った事から岩櫃山と呼ばれるようになったそうです。
由来について私個人の考えですが、櫃には遺体を入れる箱としての屍櫃(からひつ)という意味もあり、岩櫃山の山頂付近には弥生人の骨が多数発掘されていた事からこの岩山全体を遺体を収める櫃と捉えて、岩の櫃(ひつぎ)になったのではないかと想像します。
また、岩櫃山の中腹には武田氏の三名城である岩櫃城が建てられており、武田氏の没落後は家臣である真田氏によって守られ上州の政治・軍事の拠点とし、岩櫃山の奇岩奇石は岩櫃城の要害として機能されていたそうです。
このように、岩櫃山は風光明媚な光景として、史跡の一部としての性質を兼ね備え、時代と共に多くの人々と関わりを持ち続けた山であり、今では群馬百名山の一つにも選ばれています。
古谷登山口~密岩登山口
古谷登山口の駐車場から密岩登山口までは主にコンクリートの道が続き、集落の間を歩く感じになっています。
民家からは奇岩奇石から成る、まるで要塞のような岩櫃山の岩壁を眺める事が出来ます。
途中には案内看板が設置されているので特に迷う心配はありませんが、山頂以降は分岐点がいくつかあり、どちらへ向かうかきちんと計画を立てたうえで入山しましょう。地図が無い場合は登山道案内看板の写真を撮っておくと便利です。
事前に登山道の確認をしたい方は以下のサイトから地図をダウンロード出来ます。↓
密岩登山口~天狗の架け橋
密岩登山口に到着しました。
ここから天狗の架け橋までは本格的な登山道となり、急登や鎖場も登場するので気を引き締めて参りましょう。
最初は狭い登山道が続きます。
狭い登山道の中には趣のある杉の木が立ち並び、危険地帯に向かう前の癒しの空間です。
クサリ…と木には不気味に書かれていますが、ここら辺の鎖場はほとんど鎖に頼らず進む事が出来るので心配はありません。
徐々に険しさが増す登山道になり、ここからは岩場と急登を合わせさったような道が続きます。
岩場には鎖が掛けられ、さすがにこの辺りは鎖を頼りに登った方が良いと思います。
地面は意外に滑りやすいので、足元を確認しながら進みましょう。
鎖場を登りきり、尾根鞍部に到着です。
ここから核心部である天狗の架け橋までは5分と、そこまで遠くないようなので、一気に向かいましょう。
尾根鞍部より先も鎖場が続きますが、今のところは危険ヶ所も無く、スムーズに進めます。
そして、遂に岩櫃山の核心部である天狗の架け橋に到着です。
ここからは、天狗の架け橋コースと迂回路コースに分かれ、天狗の架け橋は両サイド崖のナイフリッジになっているので、自信の無い方は迂回路をおすすめします。
迂回路の様子
危険を感じた方用のルートですが、これはこれでスリルがありそうな迂回路となっています。
核心部、天狗の架け橋
もちろん私は天狗の架け橋を選択しました。
靴一足分くらいしか無い幅を進むと…
遂に天狗の架け橋に到着しました!
右は迂回路の鎖が見えていますが、左はどこまで落ちるか分からない崖となり、
これを見ると昨年の秋に登った戸隠山の蟻の塔渡りを思い出します。
しかし、さすがに蟻の塔渡りよりかは高度も低く恐怖心もそこまでではありませんが、実際進むと恐怖心が募り、ここも戸隠山で行った秘儀“またいで渡る”を発動させました!
戸隠の蟻の塔渡りの刃渡りは左側の石を伝ってトラバースも可能でしたが、ここではどうやら通用しない道になっているので、直立や四つん這いで渡るか、“またいで渡る”の二つになると思います。
渡りきって振り返る。
スパッと切れていて、恐ろしい橋である事がお分かりだと思います。
戸隠山ほどではないものの、天狗の架け橋がここまで凄いとは思いませんでした。
天狗の架け橋~岩櫃山山頂
核心部を越えてもすぐに両サイドが崖の危険な鎖場がやってきます。
とはいうものの、鎖も二つあり、比較的簡単に登れました。
その後しばらく安心した道が続き…
八合目に到着です。
ここからは不思議な空間の鎖場が続きますが、難易度はそこまで高くありません。
鎖の先にはぽっかりと穴が開き、周りを見渡すと小さな穴から大きな穴まであり、自然に出来たとは思えない穴もありました。
登山道の案内看板によると、ここは鷹の巣岩陰遺跡と言われる場所で、
発掘調査によると弥生人の人骨と壺、甕などが発見され、岩櫃山は弥生時代の再葬墓である可能性が指摘されているそうです。
再葬墓とは、埋葬した死者の骨を掘り出し、その骨を壺や甕の中に入れて再び墓に埋める事です。
恐らく、岩櫃山周辺で暮らしていた人々は人が亡くなる度に岩櫃山の山頂付近まで登り、ちょうどこの地に骨を埋め、地上から岩櫃山の大きな岩壁を墓に見立て、集落全体で祖先崇拝が行われていたと考えられます。
人の魂は死後山に帰り、山の上から子孫たちの幸せを見守って下さり、また、子孫たちは地上から亡くなった方達に対して思いを馳せるという、原始山岳信仰そのものを分からせてくれる遺跡です。
話が長くなりましたが、登山の話へ戻りましょう。
不思議な空間の最後は鎖とハシゴになり、石がすり減って滑りやすいので注意が必要です。
遺跡を越えると展望が開ける登山道に差し掛かります。
横は崖になっていますが、登山道がしっかりしているのでここは難なく進めます。
そして山頂直下の入口となる鎖場に到着です。
ここを登り、いよいよ最後の鎖場に差し掛かります。
恐らくここが一番長い鎖場で、特に右側は崖になっているので注意が必要です。
登りは比較的簡単でしたが、下りは少し手こずりました…
しっかりと三点確保し、ゆっくり下るように心がけましょう。
上から覗くとこんな感じです。
やはり下りの方が怖そうですね。
恐怖の鎖を登り終え、最後にこのハシゴを登ると…
岩櫃山のてっぺんに到着です!
この日は雲一つ無い、絶好の展望日和でしたので、360度の大パノラマが楽しめました。
それでは山頂からの景色を紹介します。
岩櫃山山頂からの景色
まず正面の奥にはピラミッドのような姿の浅間山が聳えています。
一週間前の異例の雪の影響でしょうか、真っ白のその姿は神々しさを増しますね。
西の方は草津白根山、四阿山が見渡せます。
北西方向の奥には白砂山が見えます。
ズームしてみました。
北方面の山々はまだ雪がしっかりと残っています。
快晴の空に真っ白い山々とのコントラストが絶妙です。
春特有の霞現象でよく見えませんが、奥には谷川岳が聳えています。
その右側には武尊山も見えるそうですが、やはり霞んでいます。
赤城山方面
午前中なので東側は太陽の為良く見えませんが、存在感は十分に感じます。
榛名山方面
こちらも間近に眺める事が出来ます。
見下ろせば東吾妻町の様子が一目瞭然。
1000m未満なので車が走る様子も良く分かります。
中央のS字に曲がる川は吾妻川で、その先は吾妻八景に選ばれている吾妻渓谷に繋がります。
足元を見るとこんな感じです。
本当に断崖絶壁に立っている事がわかると思います。
ちょうど影になっていたので謎のポーズで影自撮りをやってみました!
下界から私の姿は見えるのでしょうか?
ちなみに山頂はこんな感じです。
特段狭くも広くも無いという感じで、ちょうど良い広さになっています。
岩櫃山山頂~古谷登山口
絶景を楽しんだ後は登山口へ帰りましょう。
ここから登山口までは下り一辺倒で、密岩通りよりは難易度が低いものの、途中までは岩場が続くので、慎重に進みましょう。
山頂付近は、まだまだ緊張の連続です。
左側がスパッと切れているので注意!
振り返り、先ほどの山頂と奥に聳える浅間山がいい感じに写っています。
その後は特に目立った危険ヶ所は無く岩場もありましたが、すんなりと進めます。
天狗の蹴上げ石に到着しました。
まるで巨大な煙突のように聳える天狗の蹴上げ石はカメラに収めるのが大変です。
中はチムニー状になっていて、鎖を掛ければ登れそうな岩場でした。
赤岩通りと尾根通りの分岐点に到着しました。(天狗の蹴上げ石からすぐ)
尾根通りは岩櫃城本丸址まで繋がるルートで、赤岩通りはスタートの古谷登山口に通じるルートです。
歩きで本丸址まで行く事も十分可能ですが、この日は訪れる箇所が多い為に古谷登山口へ向かいました。
分岐点からすぐ赤岩通りに差し掛かり、地面を見るとご覧の通り赤く染まっているのが分かります。
そして、赤い岩場からスタート直後のような登山道を経て、赤岩登山口に到着です。
赤岩登山口のすぐ隣には潜龍院跡という史跡があります。
潜龍院跡は織田・徳川連合に攻められた武田勝頼を迎え入れ、武田の再興を図るために急きょ造られた御殿です。
しかし、勝頼はこの地に来る事なく天目山で自害してしまい、無意味な御殿になってしまったそうです。
現在はこのように石垣のみ残されており、何か物寂しい雰囲気が漂う空間になっています。
潜龍院跡から歩いて数分でスタート周辺の民家が見えてきます。
だいたい10分くらいで、スタートの駐車場に戻ります。
岩櫃山ゆかりのスポット
密岩神社
密岩神社は古谷登山口と古谷T字路の間の畑の中に位置し、岩櫃山を一望できる
最高のビューポイントになっています。
特に桜の満開時はご覧の通り、荒々しい岩櫃山の岩肌と美しい桜のコラボが大変素晴らしく、境内も広いので記念写真するにはおすすめです。(桜は4月中旬くらいが満開です)
密岩神社は元々岩櫃山の山腹に奥宮として建てられていたそうです。
権現として祀られていた事からやはり、この山も修験道の影響を受けていた山である事が分かります。
岩櫃城跡
岩櫃城は岩櫃山の中腹東面に築かれ、吾妻太郎助亮を初代城主とし、四百年近く代々城主を受け継いできましたが、武田信玄の家臣である真田幸隆によって落城されました。
以後、武田信玄の命を受けた真田幸隆が城主として、東吾妻は武田氏、真田氏の支配地となり、政治・軍事の中心となる重要な城とされ、落城以降は真田氏が城主を受け継ぐ事になったそうです。
しかし、徳川幕府の開設後、元和元年(1615)に徳川家康の「一国一城令」により岩櫃城は破却され、その役割に幕を閉じました。
現在は25m×15mの建物の土台となる形跡があり、後ろを見ると吾妻町の全てを一望できる事から、城を建てるのに丁度良い立地となっていた事が分かります。
本丸址からはご覧の通り、吾妻町から遠くの山々まで一望出来ます。
岩櫃城本丸址は平沢登山口が一番近く、この登山口には観光案内所が設けられ、中は岩櫃山や岩櫃城に関する資料や展示物、無料パンフレットも多数用意されており、更にパンフレット等を入れるデザインの凝った袋も無料で配布され、お土産としても嬉しいと思うので、この観光所案内所に立ち寄るのもおすすめです。
ちなみに平沢登山口にも駐車場が完備され、こちらは約70台ほど停められるので、車でも安心して観光出来ると思います。
観音山
平沢登山口から歩いて20分程に位置する観音山は、百基の観音像が山に祀られていることから観音山と名付けられたそうです。(駐車場もあります)
山頂までの間には様々な洞窟があり、一部ではありますが中に入る事が出来ます。
洞窟の中はご覧の通り今もなお観音様が安置され、中はひんやりと冷たい空気を感じ取る事が出来ます。
また、山頂までの途中には奇岩があり、登りがいのある山となっています。(登山口から20分で山頂に到着出来ます)
麓には不動堂と不動滝があり、いかにも行者の修行の場という雰囲気が漂う場所です。
不動堂は真っ赤なお堂で側面には不動明王が手に持っている宝剣が奉納されています。
おすすめ温泉
吾妻峡温泉 天狗の湯
道の駅「あがつま峡」の中にある日帰り温泉施設で、名勝吾妻渓谷のすぐ近くに位置します。
温泉の他にも農産物の直売や健康広場など、観光スポットとしても充実した道の駅になっています。
【公式サイト】
あづま温泉 桔梗館
岩櫃山から少し距離はありますが、ここの温泉の露天風呂からは、目の前に聳える奇勝「岩井洞」を眺めながら湯に浸かる事が出来ます。
食事のメニューも豊富で、お土産には地元の農産物も販売され、食事スペースは畳の座敷になっており、落ち着いた雰囲気の中で寛ぐ事が出来ます。
【公式サイト】
最後に
岩櫃山は低山であるものの、妙義山のような荒々しい山容から登山道には危険ヶ所も含まれ、特に密岩コースは低山と思えない程険しい道が続き、スリルを味わう事が出来ます。
また、岩櫃山には真田氏上州の拠点となる岩櫃城が建てられ、現在は跡かたも無い状態ですが、山肌に見られる堅掘や石垣の跡などから、真田氏上州の拠点の栄枯盛衰を肌で感じる事ができ、史跡探訪として楽しみながら登る事も可能となっています。
群馬県の西部に位置する吾妻は景勝地や史跡が豊富な地として、特に吾妻八景に選ばれている景勝地は多くの観光客を魅了する素晴らしい観光スポットであり、
今回訪れた岩櫃山も吾妻八景の一つとして親しまれ、周辺には見どころスポットが数多くあるので、合わせて訪れるのもおすすめです。
ぜひ、自然と史跡が点在する岩櫃山へ足を運んでみてはいかがでしょうか。