2月は毎年京都を訪れ、日帰り旅行を楽しむ時期ですが、今年は運よく連休が取れたので京都の西に聳える愛宕山を登りました。
京都の山と言えばやはり歴史的に考えると比叡山が有名ですね。延暦寺を開いた最澄が修行を行ったことや多くのエリート僧を輩出したことで、比叡山は天台宗の総本山となり、日本三大霊場の一つにまで上り詰めました。
それに対して比叡山の向かいに聳える愛宕山は京都市で一番高い山にも関わらず、さほど注目も受けずむしろ悪しき天狗が跋扈する山として恐れられていたそうです。
今回はそんな比叡山に対し影の存在として恐れられてきた愛宕山はどのような山なのかを調査しつつ、いつものように登山を楽しんできたので、登山道の様子や展望を合わせてお伝えしたいと思います。
愛宕山のアクセス、駐車場
アクセス
車の場合は名神高速京都東ICより約1時間、京都南ICより約50分、最寄りの駐車場はさくらや駐車場を利用(有料)
バスの場合は清滝バス停で下車、バスの情報は愛宕神社HPをご参考下さい。
【外部リンク】
駐車場
有料駐車場ですが、さくらや駐車場が一番近く、広い駐車場になっています。
営業時間、料金も季節や状況によって変わるので、公式サイトよりご確認下さい。
【外部リンク】
愛宕山とは
愛宕山は京都市の西に位置する京都市内最高峰924mの山で東の比叡山、西の愛宕山と言われるように古くから信仰の山として崇められた山です。
愛宕略記によれば、大宝年間(701~704)年に役行者が泰澄と共に登り山頂に山霊を祀る神廟を造立したのが始まりとされています。その後は和気清麻呂と僧・慶俊と共に山頂に白雲寺を始め、五寺を建立し愛宕大権現を祀りました。
中世以降は神仏習合により愛宕山も修験道の道場として発展すると共に天狗の住まう山とされ、日本一の大天狗、天狗太郎坊が祀られるようになり、天狗信仰が発生されました。
近世になると山伏により天狗太郎坊は火伏せや鎮火の効力を発揮すると伝えられ、全国に愛宕信仰が伝えられました。そして、明治以降は神仏分離に伴い、御祭神も火の神である迦具土神を生んだイザナミが祀られるようになり、白雲寺から愛宕神社へ改めるようになりました。
現在の愛宕山は比叡山と共に日本三百名山に選ばれ、信仰の山としての面影を残しつつ多くの登山者を迎え入れる山になりました。
駐車場~愛宕神社
駐車場の前の橋を渡り、矢印に従い進んでいくと表参道の登り口である鳥居が見えてきます。
鳥居を潜るとすぐにこんな可愛い犬がいます!
クゥちゃんと言う名前ですね!
このクゥちゃん、毎日登山者の無事を祈るためにここにいるそうですよ。
それにしてもすごくおとなしい犬です。
いくら撫でても嫌そうな顔はせずむしろ頑張ってね、という風にこちらをジーって眺めてきます。ほんと可愛い。
さて、クゥちゃんをなでなでしたので登山に戻りましょう。
神域らしい厳かな雰囲気を漂わせる登山道です。
いかにも信仰の山という感じが登り始めて分かると思います。
しばらくするとこのような跡地があります。
ここには火燧権現が祀られた社が建てられていたそうです。
京洛に火事が起こると社が鳴動する事からこのように名付けられ、火事に関わる社として明治の中頃まで建てられていたと書かれています。
現在は石碑のみとされていますが、石碑の周りには様々な神の名が記された石柱や石仏が安置され、今もなお信仰の場という空気を感じます。
更に後ろには、何でしょう落雷か何かで焼き焦れた太い木が立っていました。
やはりこの山は京都の火災を守る何かが宿っているように感じます。
その後も急でもなく緩やかでもないちょうどいい感じの登山道が続きます。
所々安置されているお地蔵様に癒されます。
しっかりとお花が供えられていますね。
そして中間地点となる二十五丁目にやってきました。
ここには「なかや」という茶屋があったそうです。
愛宕山の参詣道には一の鳥居から山頂までの間に多くの茶屋が設けられ、中には宿泊施設も兼ねた茶屋もあったと書かれています。
山頂までの一丁毎に茶屋は設けられていたそうで、伊勢へ七度、熊野へ三度、愛宕さんへは月参りと詠われるほど地元の方々の愛宕山に対する想いや信仰が茶屋の多さから感じ取れると思います。さぞかし今より多くの人で賑わっていただろうと想像できますね。
ちなみに、石垣は茶屋の名残だそうです。
たしかによく見ると人の手で積み上げられたように見えます。
茶屋を越えしばらく歩くと見晴らしの良いポイントに到着します。
今まで一切展望が無かったので、この光景を見ると少し立ち止まってしまいます。
目の前には桂川が見え、少し霞んでいますが京都駅も見えるのではないかと思います。
ちなみに登山道の途中に展望スペースはありませんので、邪魔にならないように景色を堪能しましょう。
愛宕山にはこのような消防分団による火の用心を促すプレートがあちこちに立てられています。登山口から山頂まで均等に設置され、内容も様々です。
時折ユニークなプレートも見当たるので、登りながら眺めるのも楽しみの一つです。
この辺りから徐々に雪がうっすら見られるようになりました。
まぁ時期も時期ですし、こればかしはしょうがないのかな~なんて思いましたね。
その後も標高が上がるにつれ、雪の量も増えていきました。
しかも坂も始めの頃より急になったと思います…
しかし、見上げると木に降り積もった雪が何とも素晴らしく、途中何度も見上げては写真を撮りました。
山頂近くもご覧の有り様
ここまで来れば完全に雪山ですね。
この辺りから軽アイゼンを取りつけました。
基本私は無雪期しか登らないので、雪山登山は苦手です…
水尾分かれという分岐点を通り、暫く歩くと黒い門が見えてきます。
真っ黒に作られたこの門はその名の通り黒門と呼び、京口惣門とも呼ばれていたそうです。
この門を潜ると白雲寺の境内となる玄関の役割を果たされていましたが、現在はここから先は愛宕神社の境内になっています。
この門は神仏習合時代の名残の一つとして数えられています。つまり、明治以前からここに建てられている貴重な建造物です。
今まで数々の神仏習合の神社を訪れましたが、大概門というのはそのまま残される傾向があるみたいです。やはり、聖なる場所とそうでない場所の境界となる目印はとても重要視されている事が分かります。
ここまで来るとようやく境内に入ったという感じです。
参道にはずらりと灯籠が並んでいます。
恐らく愛宕山の崇敬者たちによって寄進されたものだと思われます。
広い参道の中暫く進むと左側には何やら建物があり、覗いてみると授与所と書かれていたので、現在は愛宕神社が管理されているようです。
しかし、雰囲気からして、かつてはこの辺りは宿坊が建てられていたのではないかと思われます。
ちなみにトイレも完備されていますが、トイレは個室と吹き抜けの2種類あります。
特に危険なのは吹き抜けトイレの和式です。(拡大すると見えます)
これ、よく見るとしゃがんだら確実にお尻丸見えのトイレになっています。
凄いですねー!こんなスリル満点なトイレなかなか無いと思いますよ!
個人的にはスリル満点の和式に挑戦したい!と思っていましたが、残念ながらこの時大きい方は出なかったですね…
だれかやらないかな~なんて思いながらふらふら彷徨っていましたが、だれもやりませんでしたw
便所トーークはさておき、先へ進みましょう。
長い参道と階段を登り終えるとようやく鳥居が見えてきます。
愛宕神社の様子
鳥居を潜り、階段を登ると拝殿が見えてきます。
拝殿の様子
中は広く縦長なので多くの方が入れるスペースになっています。
入ってすぐに授与所と反対側には待合所が設けてありました。
愛宕神社を参拝するにはやはり登山の格好で訪れなければならないので、ほとんどが登山者ばかりです。そして驚いたのは、ほとんどの登山者が御朱印を受けていて、格好は登山者でも神社巡りを行う参拝者にも見えました。
御朱印が目当てなのか、登山がメインなのか、それとも純粋に愛宕神社を参拝したいだけなのか…と、拝殿に集う方々を眺めながらそんな事を考えていました。(どっちだー?)
愛宕神社の御祭神は火の神迦具土神を生んだイザナミの他、豊宇気毘売神(とようけびめ)や土の神、稲の神などが祀られています。
御利益的に考えると愛宕神社の神は防火や火伏せという火の畏れからきていますが、この他に農耕や食に関わる神も同時に祀られていると言う事は、火は暖を取ったり、料理に使ったり、更に農業に於いては焼畑農業など、私たちの暮らしに様々な恩恵を与えていることも事実です。
つまり、火は命を奪いかねない恐ろしい力があるというマイナスな面がありますが、それと同時に人々の暮らしを豊かにさせる存在であるというプラスの面も兼ね備えています。
このようにプラス、マイナスの面を差別することなく同時に受け入れながら神として崇める姿がいかに日本人らしく、愛宕山の神は多くの庶民が月参りするほど崇敬されていた事が分かると思います。
愛宕神社周辺の展望ポイント
さて、愛宕神社を後にし、ここから月輪寺経由で最初の駐車場に戻ろうと思います。
ここは分かりづらいですが、先ほどの愛宕神社と書かれた鳥居の先にある門を通ったすぐ右に細いですが下るルートがありますのでそこを進んでいきます。(矢印の方向)
下っていくと白髭明神というお社があるのでそこを通過していきます。
下り終えると左右に分かれる道に出るのでここを右に行くと月輪寺経由で駐車場に戻るという看板が現れます。
が、ここで少し左の道を少し歩きたいと思います。
というのも、白髭明神から下った分岐点より左に進むと絶景ポイントがあり、そちらからの景色がおすすめなので行ってみましょう!
分岐点から歩いて4、5分程度でこのように視界が開ける場所に到着します。
愛宕神社からは残念ながら展望は望めませんが、ここからは遠くの山や町並みを見下ろせるのでぜひ、ここまで足を運びたいところですね。
奥の雪山は鈴鹿山脈でしょうか?
まだまだ雪景色が続いています。
正面の整った山は比叡山ですね。
東の比叡山、西の愛宕山と言われていますが、なんか…ジーっとこちらを睨んでいるように見えますね。
景色を楽しんだ後は帰りのルートへ戻りましょう。
先ほどの分岐点を過ぎてすぐにこのような看板があるので、ここを下りましょう。
愛宕神社~月輪寺
降りてすぐの所にも絶景ポイントがあります。こちらからは京都市内が一望できる展望になっています。
さて、展望を楽しんだ後はひたすら下りが待ち構えています。
相変わらず雪が降り積もっているので、注意しながら下山します。
最初の分岐点にやってきました。
若干月輪寺経由の方が遠回りですが、せっかくなのでここは月輪寺方面へ向かいましょう。
月輪寺に近づくと雪も少なくなりました。
再び歩きやすさが戻ってきます。
そして月輪寺に到着しました。
月輪寺は慶俊僧都により開かれた五寺の一つであり、大鷲峰の月輪寺と呼ばれていました。境内はそれほど広くありませんが、ひっそりとした山奥に佇む寺はなんだか落ち着きます。
本堂の正面には寺務所があります。
中にはお守り等が授与されています。
本堂の隣には頑丈な建物があります。
これは宝物殿でしょうか?
中には重要文化財に指定されている仏像が安置されているとの事です。
それにしても立派というか頑丈そうな宝物殿ですね。
月輪寺~駐車場
さあ、駐車場に向けてもう一息の下山です。
ここから先はもう雪もないので安心して進む事ができます。
登山道を下り終えると月輪寺への登り口というポイントに到着します。
やたら大きな文字で登り口をアピールしているように見えますが、何か意味があるにでしょうか?
ちょっと寄り道をしましょう。
この滝は京都近郊では最大級との事で、どんな滝なのか見に行きましょう!
急な登りではありませんが、10分ちょっと登りが続く道になっています。
そして空也の滝に到着です。
見た瞬間、これは完全に修行の為の滝なんだなと、雰囲気がそう物語っています。
滝の目に前に鳥居、周囲には役行者、不動明王の石仏が安置され、恐らく登山前にここで修験者たちが水垢離を行っていただろうと想像する事ができますね。
滝の横には役行者の石像と、ふと見上げるとそこには不動明王がいらっしゃいます。
修行中の修験者たちを見守るかのように見下ろしていました。
規模はそこまで大きくありませんが、以前訪れた御嶽山の清滝と新滝を思い起こすような雰囲気が漂っています。ここに立った瞬間何故かヒヤっと感じました。やはり滝には不思議な力が宿っていると、いつも眺めながらそう感じます。
空也滝を後にし、最後は舗装された道路を下っていきます。
2、30分で最初の駐車場に到着します。
登山後の温泉は嵐山の風風の湯へ
愛宕山に近い観光地といえば嵐山です。
嵐山は京都を代表とする観光地であり、毎年多くの方が来られることで有名ですね。
そんな中、ここ「風風の湯」は嵐山初の日帰り温泉施設としてオープンし、嵐山を観光がてらゆっくり温泉に入る事のできる観光客に嬉しいスポットです。
温泉の他に食事処やマッサージコーナーなど、旅の疲れを癒してくれる設備も整っています。愛宕山からも近いので下山後はぜひ風風の湯へ!
【営業時間】12:00~21:30(最終受付21:00)
【定休日】無(休館日有)
【料金(平日)】大人(中学生以上)1000円、小人(3才~小学生)600円、乳幼児(2才まで)300円
【料金(土日祝日)】大人(中学生以上)1200円、小人(3才~小学生)600円、乳幼児(2才まで)300円
【駐車場】無しですが、近くに提携駐車場(有料)あり。詳しくは公式サイトをご覧ください。
【公式サイト】
最後に
愛宕山は京都市で最も高い山として聳え、比叡山と並ぶ歴史のある山です。
歴史上では京都の鬼門を守る比叡山に比べ、愛宕山は影の存在として恐れられていましたが、実際に登ってみると登山道には多くの石仏、山頂には立派なお社が建てられ、本来は多くの方に崇敬されていた山であると感じる事が出来ます。
山頂の愛宕神社までの登山道は危険箇所も少なく歴史を感じる事ができ、展望は一部ではありますが、京都市を一望できる場所もあります。
愛宕山は嵐山に近い山でもあり、下山後は嵐山を観光する事も十分可能なので、ぜひ登山と観光の両方を楽しんでみてはいかがでしょうか。