飯縄山は長野市の北西部に位置する標高1917mの山で、戸隠山、妙高山、黒姫山、斑尾山と共に北信五岳の一つに選ばれています。
古くから信仰の山と認識され、戸隠山を開いた学問行者によって飯縄山も開かれ、修験の山としての歴史を持つ山です。
現在は信仰の山としての面影を保ちながらも、麓にはスキー場や多くの観光施設が立ち並び、観光登山として多くの観光客で賑わう山に変化し、日本に百名山にも選ばれています。
今回は秋の深まる10月下旬に訪れ、歴史のある南登山道から山頂へ向かいました。歴史を感じる登山道及び山頂からの北アルプスや北信濃の絶景を紹介したいと思います。
飯縄山のアクセス、駐車場
アクセス
上信越自動車道信州中野ICから国道18号、県道404号、バードラインを経て約30分で一の鳥居苑地駐車場に到着します。
駐車場、トイレ
駐車場は広く、約50台停められる無料駐車場です。隣には24時間いつでも使える水洗式トイレもあります。トイレは綺麗でした。
十三仏を巡る歴史の登山道を登ろう!
広い駐車場からすぐに登山道が始まります。
最初は平坦な道が続き、本日ほとんどハイキングコースのようになっています。
茂みを抜けると長いコンクリートの道に差し掛かります。
本当に登山道?と思いますが、地図ではここを通るように書かれているので心配はご無用です。
コンクリートロードを進んでいくと、狛犬と鳥居が現れます。
扁額には飯縄大明神と書かれ、いよいよ本格的な登山道の始まりです。
登山口が鳥居という事はここから先は神域の始まりでもあるので、一礼してから進みましょう!まさに、信仰登山という感じですね。
序盤は緩い坂道を登る感じで、この辺りはハイキングレベルの登山道です。
登るにつれ木々の色が増し、この時期ならではの紅葉が楽しめます。
途中には旧一の鳥居跡がありました。
本来ならばここから本格的な登山が始まったのだろう。
旧鳥居跡を通るとすぐに十三仏の一番目の仏である不動明王が安置されていました。
ここから先は山頂の直前まで、十三仏に見守られながらの登山になります。
十三仏は初七日から三十三回忌までの十三回の法要の守護仏です。
仏教では故人はこの十三の仏に守られながら極楽浄土へ導かれると信じられています。
その後も様々な仏様に見守られながら登山道を進んでいきます。
神仏分離の現在は神の山として認識されていますが、このように仏も大事にされているのは珍しいと思う。極楽浄土を願いながらこの山を登っていた行者たちの姿を感じられる登山道ですね。
第十二の大日如来を過ぎた所から岩場が登場しますが、特に危険を有する場所ではないので足元を確認しながら進んで行きましょう。
給水ポイント、富士見の水場に到着です。
水はコンコンと湧き続け、私も有難く頂戴しました。
直に飲む天然水はやはり美味しい!
富士見の水場から少し進んだところに、天狗の硯岩という場所に到着します。
岩はご覧の通り大きな硯のようになっています。
天狗という名前からやはり修験道を感じる場所になっていますね。
それにしても、硯岩の手前には硯岩に向かって岩が並べてあるように見えます。
自然に出来たものか、あるいは人の手によって並べられたのかは分かりません。
もし人の手によって並べられたのなら、この場所に何か建てられていたのでしょうか?
と、そんな妄想をしながら頂上へ向かいました。
天狗の硯岩を越えると岩の多い登山道になります。
若干歩きにくい箇所もありますが、特に注意することなく登る事ができます。
この辺りから視界も開け、景色も良くなります。
八ヶ岳と奥には富士山が見え、北アルプスの山々も姿を現します。
まだ山頂ではないのに既に絶景を味わえ何度も足を止めてしまいます。
こんな光景を目にしたら登山に集中できませんね~
逐一振り返り写真を撮りながら登り、己の集中力の無さを実感しつも鳥居に到着です。
古い祠が一基あるだけの神社です。
祠の中を覗いてみるとそこには石仏が祀られていました。
姿から、これはどうやら飯縄権現のようです。
地図で確認すると飯縄神社はもう少し先にあるみたいですが、ここは神社なのでしょうか?それとも本当はこの場所が飯縄神社だったのでしょうか?
しかし、この神社からの眺めも最高に良いです!今までの苦労が一気に晴れるようなそんな光景が広がっています。
さて、山頂まであと一息なので再び登りましょう。
ここから道が二つに分かれていますが、ピンクのテープが付いている方へ進みましょう。最初分からず間違ったルートを歩いてしまった…
その間違ったルートを歩いていたらこんな場所に出会った。
神の井戸という名前で、苔だらけの小さな祠と僅かに溜まった水がありました。
恐らく枯れることなく湧き続けていたであろうこの井戸、小さいながら触れてはいけない!という感じがしました…
しかも紙垂が新しいものだったので、今でも大切にされていると思われます。
ルートを修正し、先ほどの神社からすぐに地図上の飯縄神社に到着しました。
ここからの景色も素晴らしく、またしても鳥居とコラボ写真を撮りました。
飯縄神社
さて、飯縄神社ですが、これは麓にある皇足穂命神社の奥社として鎮座し、明治以前は飯縄大権現と呼ばれていたそうです。
お社はコンクリートでしっかりした造りになっています。
正面には神を祀る社と鏡が設けられ、両サイドには天狗面と飯縄修験の象徴である飯縄権現像が安置されています。
今もなお信仰登山として登られている事を感じさせるお社ですね。
壁には飯縄権現の絵が掲げられていました。
飯縄権現は背後に炎が描かれていて、一瞬不動明王?と思いますが、よく見ると天狗と狐が描かれています。
飯縄山は飯砂山とも呼ばれ、山頂付近には天狗の麦飯という食べれる砂があった事からそのように呼ばれていました。しかし、山名は砂ではなく縄を用いられているのはこの山に籠った千日太夫という天狗が飯の付いた縄を使って狐を馴らし、その狐を用いた術を飯縄の法と名付けた事により、山名も飯縄山になっています。
つまり、この飯縄権現はこの山に潜む天狗と使い魔である狐が描かれ、後ろの炎は修験道を彷彿させる為に描かれたのではないかと思われます。
ちなみに、頭上の白蛇は農耕神である宇賀神が乗せられ、飯縄山の本来の神である農耕神としての性格も兼ね備えているように感じます。
余談ですが、宇賀神とは宇迦之御魂大神の事で、この神は稲荷の神様として全国の稲荷神社に祀られています。また、稲荷の神様は狐をお使いとしているので、稲荷神社には狐の像がよく見られます。このように飯縄権現と共通している部分があり、恐らく関りはないと思いますが、何か通ずるものがあるように思えます。
飯縄神社の反対側は戸隠山がよく見えます。
ふと地面をよく見るとここに何か建てられた跡らしきものが残っていました。
目の前には戸隠山の奇峰が眺められるので、ひょっとしたらここは遥排所だったのかも知れませんね。
飯縄神社~飯縄山山頂
さて、飯縄神社から山頂まであと一息です。
どうやら奥に見えるピークが山頂のようです。
緩い登りで、しかも10分程度でたどり着きます。
山頂に到着しました。
ここからは北アルプスから八ヶ岳、秩父方面まで見渡せる360度の絶景を楽しめます。
また、山頂は広くちょうどよい腰掛岩がいくつも転がっていました。
岩に腰かけてゆっくり絶景を味わいましょう。
何といっても北アルプスの景色は最高です。
この日は天気があまり良くないですが、ガスも無く視界がよかったのでご覧の通り一直線に北アルプスオールスターズを見渡すことが出来ました。
南方面は八ヶ岳や南アルプス、秩父まで見渡すことが出来ます。
雲の多い景色ですが、目を凝らすと有名な山が見えます。
富士山は八ヶ岳の横にちょこんと小さく見えます。
真ん中の八ヶ岳が物凄く立派に見えるのは気のせいだろうか…
少し場所を移すと、黒姫山と奥には雪化粧の妙高山が見えます。
まだ10月ですが、山はもう冬ですね。
戸隠山の全体はこんな感じです。
標高は飯縄山とほぼ同じで少し低いくらいですが、山容はギザギザの岩肌が連なり、龍を思い起こす姿になっています。元々九頭龍権現という龍神が祀られていたそうで、ここから戸隠山を眺めると納得します。戸隠山を開山した学問行者もこの光景を見てそう思ったのでしょうか?
更に奥に聳える北アルプスたちも神々しいオーラを放っています。
晴れていればもう少しはっきりと山を確認できますが、微妙な曇りと雲海、薄明りの太陽が山々を照らし、これはこれで幻想的というか神々しさの増す光景ですね。
標高もそこまで高くない山ですが、雲海の様子からまるで高山を登っているような感覚を味わえました。
飯縄山周辺の観光スポット
飯縄山の近くには魅力的なスポットや山がたくさんあり、特に隣の戸隠がおすすめです。飯縄山と同じく山岳修験として広がった戸隠山は鎖や岩場のある上級者向けの山ですが、山頂部の景色は素晴らしく、達成感を感じられる山です。
また、麓には戸隠神社が鎮守し、本社、中社、宝光社の三社に別れ、日本神話の縁の神々が祀られているので、ぜひ神話で活躍した神々を参拝してみてはいかがでしょうか。更に北へ進むと黒姫山、妙高山も近いので、合わせて登るのも良いかもしれませんね。
最後に
今回の登山は登山道の途中に十三仏が祀られている歴史を感じるルートで登り、コースは特に危険箇所や急登もほとんどないので、気軽に登る事ができます。
また、展望が素晴らしく、山頂部も広いのでゆっくりと景色を味わう事も可能です。
登り下りとそれほど時間がかからないので、下山後は戸隠方面へ史跡探訪や観光する事も十分可能なので、合わせて行かれることをおすすめします。