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【木嶋坐天照御魂神社】日本唯一の三柱鳥居がある木嶋神社(蚕の社)とは?

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1000年の都と呼ばれる京都には大小無数の寺社があり、時の権力者が築いたものもあれば、古より守り続けた神社仏閣などの宗教施設が点在する、まさに歴史の都市です。

多くの歴史建造物が残された京都は観光地として、年間大勢の観光客で賑わい、日本人だけでなく外国人にも人気の場となっています。

さて、そんな多くの有名な神社仏閣が存在し大勢の観光客で賑わう京都の街に、日本で唯一の鳥居が存在している事をご存知でしょうか?

今回紹介する神社には全国でも珍しい鳥居で、恐らくほとんどの方が見た事のない形をした鳥居だと思います。しかもその神社は住宅街に位置するので観光スポットと言うより地元の神社という雰囲気が漂うこぢんまりとした神社です。

それでは今回は全国で唯一の三柱鳥居のある木島坐天照御魂神社を紹介したいと思います。

全国唯一!珍しい三柱鳥居

鳥居とは神社の入口や門の役割を持ち、どの神社を訪れても必ず入口に鳥居が建てられています。

大小様々で形も多少の違いが見られる鳥居ですが、この木島坐天照御魂神社には正面の鳥居の他、社殿の左奥にひっそりと何かを守っているような、奇妙な鳥居が建てられているとの事で、今回ようやくこの目で確かめる事ができました。

そもそも鳥居とは?

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鳥居は入口や門の役割と言いましたが、実際に神社の鳥居を見てみると扉は無く、いつ誰でも入れるようになっています。一方、お寺を訪れると正面に門が建てられていて、閉門と同時に中に入れないようになっていると思います。

このように神社は寺院と違い至って解放的な宗教施設である事は想像できますね。

さてこの鳥居、そもそも何で鳥居と呼ばれているのでしょうか?

「鳥」と書かれているので鳥に由来する説があります。

これは天の岩屋戸伝説で、天照大御神を岩屋戸から出させる作戦の時、まず始めに常世の長鳴鳥(ニワトリ)を集めて鳴かせその後様々な作戦の末、偉大な神である天照大御神を岩屋戸から救い出した故事から、ニワトリ(鳥)の止まる木を立てたという説。

ちなみに、この鳥が鳴くという行為を取り入れた神事があるのですが、それは滅多に行われる事のない遷座祭という祭儀の中に組み込まれています。

実はこれも天の岩屋戸伝説にちなんだ所作で、遷座祭の「遷御」という今まさに御神体が移動する一番最初に、カケコー!カケコー!!という大きな声の掛け声を合図に遷御が開始されます。このカケコー!は紛れもなくニワトリの鳴き声を意味しています。

遷座祭は御神体が移動する時に行われるので、やはり滅多に見れるものではありませんが、神宮(伊勢神宮)では二十年に一度、式年遷宮という神様のお住まいの引っ越しが行われ、その際に行われる遷座祭も必ずこの掛け声から始まります。

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話を戻しましょう。その他、神社に坐す神様が「通り入り」する事から転じて鳥居となった説もあります。鳥居をくぐると一直線上に社殿があり、社殿までの道を参道と呼びますが、実は参道の真正面は正中と言う神様の通り道とされ、参拝の際はこの正中を避けて歩く事が望まれます。神様はいつでも自由に鳥居を行き来しているという事ですね。

また余談になってしまいますが、先ほど鳥(ニワトリ)の鳴き声を合図に天照大御神を救い出したと述べましたが、この鳥というのは古来より神の使いと信じられていたそうです。

人は死後、魂があの世へ旅立つ事は今も昔も変わらず信じられていますが、その魂は白い渡り鳥によって運ばれると考えられ、日本に来てはまたどこかへ飛んでいく姿がこの世とあの世を行き来しているように感じた為です。

つまり、魂や御霊は鳥の形と考えたそうです。例えば神社で祈祷や正式参拝を受けた方の中に玉串奉奠という玉串を神前に捧げてお参りする所作を行った方もいると思いますが、その玉串には紙垂という、白いひらひらの紙が付けられており、これはやはり鳥の羽を意味しています。玉串奉奠は玉串に記念を込めて神前に捧げお参りする作法ですのでそれはつまり、願いや祈りを白い鳥が神様の下へ届ける事になります。

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このように鳥は聖域である神社と日常の世界を行き来する動物であり、鳥居は鳥が聖域に入る為の目印の役割を果たしているようにも感じます。しかし実のところ、鳥居の意味は残念ながら明確に分かっていませんが、神の使いである”鳥”という文字が使われている事から、ここから先は神の居る聖域を表している事に違いはありません。

実際に三柱鳥居を見てみよう!

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鳥居について話過ぎたので戻しましょう。

タイトルの通り、日本で唯一の三柱鳥居は境内の左奥、本殿から西側に建てられています。その三柱鳥居の入口にも鳥居が建てられ、また新たな聖域である事を醸し出していますね。

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鳥居をくぐると正面に注連縄が張られ、その奥に三柱鳥居が建てられています。

外から眺める事はできますが、目の前で見る事はできませんね。ここまで厳重にしかも注連縄まで張られているとなると、よほど重要な場という事を肌で感じます。

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で、これが日本でも珍しい三柱鳥居です。

一見何かのモニュメントに見えますが、よく見るとやはり鳥居である事が分かりますね。鳥居の柱は石で造られ、看板によると天保二年(1831)に再興されたと書かれています。現在の社殿は明治時代に建てられたので、それ以前はこの場所で祭祀が行われていたと思われます。

鳥居は三つの柱を三角形に配置し、まるで何かを守っているように感じ、鳥居というか結界の部類に当たるのではないかと思います。

この神社には天之御中主神が祀られていますが、この神は造化三神の一柱であり、造化三神とは日本神話に登場する一番最初に生まれた神々です。つまり、八百万の神と呼ばれるように、数えきれない程の神が存在する日本の神々の中で、天之御中主神、高御産巣日神、神産巣日神の三柱が最初に生まれ、その三柱の中でも一番上に立つ天之御中主神は神々のピラミッドの頂点に立つ最も尊い神である事が分かります。

また、天之御中主神は天の中心を象徴し、天地宇宙の中心を主宰する神として存在しています。今一度三柱鳥居を見てみると、三角形に建てられた鳥居の中心に一本の御幣が立てられていますが、これは三角形の中心、つまり天の中心を表し、最も尊い場を意味しているのではないかと個人的にそう感じてしまう。

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境内図を見ると三柱鳥居は本殿西にある「元糺の池」の中心に建てられています。糺は誤りをなおす、正しくなすという意味が込められ、この池は罪穢れを祓い心身を清める為の行場であったそうです。

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現在は水が一切張られていませんが、周りを見ると確かにかつては水が張られ、池になっていたと思われます。

元糺の池からは水路も造られており、現在は流れていませんがかつてはここを北から南へ流れていた事が分かります。

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由緒には三柱鳥居の創立年月日は不詳で、何故このような鳥居なのかもはっきり分かっていないそうです。一説によるとキリスト教の一派であるネストリウス派の遺物ではないかとも伝えられています。

先ほど鳥居は神様の通り入る道と話しましたが、この三柱鳥居は三方向の通り道が開かれている事から、各方面より拝する事が可能な優れた鳥居ということになります。

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三柱鳥居は正面だけでなく、拝殿と拝所の間からも確認できます。

少し見にくいですが、ここから見るとはっきり立体的になっている事が分かります。

木島坐天照御魂神社の境内(鳥居~本殿)

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最初に見どころである三柱鳥居を紹介しましたので、ここから神社の境内を順に見て行きましょう。

神社は住宅街に鎮座され、いかにも町の鎮守さまのような神社です。

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神社名は木嶋坐天照御魂神社で、延喜式神名帳の九巻にその名が記されています。

天照御魂と書かれているので、天照大神の事と思いきや、実は天照御魂神は天照大神の孫である彦火明命の別名で、あの有名な天孫邇邇芸命の兄神として生まれた神です。

天照大神の命により丹後に降臨し丹後地方を治める役割を担ったとされています。丹後は京都府北部に位置する令制国の一つで、位置的にも遠くないので後にこの場所に祀られたという説もあるそうです。

その他にも様々な説がありますが、どれが正しいかは分かっていません。

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鳥居をくぐると拝殿まで長い参道が続きます。参道の途中には社務所と祭具庫が立ち並んでいます。祭具庫の横には稲荷社へ続く道があります。

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社務所は閉まっていましたが、正面におみくじマシーンがぽつんと置かれていました。

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立派な拝殿に到着しました。

正面に賽銭箱がありますが、中に入れませんでした。

吹き抜けの拝殿なので、奉納神楽や結婚式などはこの拝殿で行われるのでしょうか?

ちなみに正面奥が拝所、左奥が先ほど紹介した三柱鳥居、元糺の池方面です。

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最奥の拝所並びに本殿に到着しました。

現在の社殿は明治以後建てられたそうなので、比較的新しい造りになっていました。

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本殿の横には東本殿という社殿があり、蚕養神社(蚕の社)とも呼ばれています。

この神社の周辺の地名が太秦(うずまさ)と呼ばれているのは渡来系の氏族である秦氏にちなんだとされています。秦氏は新羅から日本へ渡り先進の土木技術を駆使して様々な土地を開拓し、ヤマト王権に大きな功績を残した氏族であります。更に秦氏は養蚕も得意とされ、この神社が蚕養神社や蚕の社と呼ばれるのもその為とされています。

延喜式神名帳には木嶋坐天照御魂神社と書かれていますが、元はやはり養蚕の守り神としての神社だったのではないかと思われる。

また、秦氏は稲荷神社を創祀したとされ、それはつまり伏見稲荷大社を創建した氏族と言っても過言ではありません。ちなみにこの神社にも実は稲荷社がきちんと祀られています。

木嶋坐天照御魂神社の境内(稲荷社)

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場所は変わって、三柱鳥居が建てられた元糺の池から流れる水路の先に稲荷神社が鎮座しています。入口には稲荷神社らしく狐の像が立っています。

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稲荷神社の橋と鳥居を渡るとお社が数ヶ所あります。

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手前に二ヶ所あり、こちらはこぢんまりとしたお社ですね。

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そして奥の稲荷社が立派というか神聖さを感じるお社になっています。

社殿というより小屋のような風貌で、小屋の周りは岩で頑丈に固められていました。

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中は暗く、さすがに中に入って写真を撮ろうとは思いませんでした。

扁額には白清稲荷大明神と書かれていて、祭壇もきちんと設けられているので、恐らくこの神社の最も重要な稲荷社ではないかと思います。

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稲荷社は湧き水や井戸の近くに祀られている事が多いそうで、これらの稲荷社も池の近くに祀られています。その場合、雨乞いの水の神としての性格を持っているそうです。

稲作には水が不可欠であり、現在、お稲荷様は商売繁盛のご利益として崇敬されていますが、本来は農耕神として祀られていました。

恐らくこれらの稲荷社も農耕神や水の神の性質を備えた神ではないかと思われます。

木嶋坐天照御魂神社のアクセス、駐車場

 

アクセス

嵐電嵐山本線「蚕ノ社」駅下車、徒歩5分

JR嵯峨野線「花園」駅下車、徒歩7分

地下鉄東西線「太秦天神川」駅下車、徒歩5分

市バス「蚕ノ社」下車、徒歩5分

駐車場

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残念ながら神社専用の駐車場はありません。

神社から斜め左にあるセブンイレブンの奥(矢印方面)にコインパーキングがあるので、車でお越しの方はこちらの駐車場に停める事をおすすめします。(神社から徒歩1分)

最後に

住宅街にぽつんと鎮座する木嶋坐天照御魂神社は延喜式神名帳に記載された歴史と由緒ある神社です。特に境内には日本唯一の三柱鳥居という珍しい鳥居があり、鬱蒼とした森にその姿を確認する事ができます。

三柱鳥居は厳重に守られ、古代祭祀を思い起こすような神聖さを感じ取る事ができ、更に創建や用途もはっきり分かっていないので、ミステリアスが込められたその姿をぜひ自分の目で確かめる事をおすすめします。

京都は多くの観光スポットや観光系の神社仏閣で溢れていますが、このような観光地から一歩外れた住宅地にも歴史を感じ取れる神社や宗教施設がまだまだあるかもしれませんね。