朝晩がようやく冷え込んできた11月、紅葉を追いかけて福島県の霊山を訪れる事になりました。この日は霊山がメインですが、前回訪れた時に霊山の反対側にある虎捕山という岩山の存在を知り、この山の山頂には巨岩と絶壁神社があるとの事で興味が湧き、次に訪れる時に登ってみようと思い、今回は霊山の前に訪れてみました。
山頂には巨岩、神社がある事からこの山も霊山と同様に山岳信仰の山に違いないと思い、気を引き締めて登り、案の定山頂には巨大な磐座と立派な社殿が建てられ、更に景色も素晴らしい山でした。
果たした虎捕山とはどうような山なのか?また、どのような由来からこのような名前になったのか、登山道や山頂の様子を見ながら紹介したいと思います。
虎捕山とは?
虎捕山は福島県相馬郡飯館村に聳える標高705mの低山ですが、山頂には麓からも確認できるほどの巨大な岩があり、信仰登山の山を感じさせる風貌を成しています。
麓には山津見神社という神社の拝殿、山頂の巨岩には寄り添うように本殿がそれぞれあり、典型的な神体山信仰の構図が垣間見れます。
この山津見神社は後冷泉天皇の御代永承六年(1051)の創建で、虎捕の虎とは霊山周辺の村落を横行し民家を襲って材物を強奪た橘墨虎という人物で、朝廷からは賊と認定され、陸奥守に任命された源頼義公によって討伐されました。
橘墨虎が捕えられ、討伐された場所がこの山で、墨虎を捕えた事から虎捕山と呼ばれるようになったと云われています。
その後、源頼義は山神の御神徳を感じ、山頂に虎捕山神を祀った事から山津見神社の歴史が始まったそうです。
虎捕山(山津見神社)のアクセス、駐車場
アクセス
東北中央自動車道「霊山飯舘IC」から約10分で到着。
駐車場
拝殿正面階段下に参拝者用駐車場があり、数台停められるスペースの他、広大な駐車場も完備されているので、駐車には困る事はありません。
ちなみに境内にはトイレもありました。
麓には立派な山津見神社が鎮守
駐車場隣には山津見神社と書かれた立派な幟が揚げられ、隣にはちょうど見頃のイチョウの木があります。
山津見神社と書かれた額が取り付けられた鳥居の正面には立派な社殿が建てられています。由緒書によると、拝殿は明治三十七年に御造営され、当時は木羽葺でしたが、昭和四十一年に銅板葺になったそうです。
現在の拝殿はさらに改築されたみたいで、外見は凄く綺麗です。
この神社の面白いところは、拝殿の入口が自動ドアになっているところです。
まだ授与所が開いていない時間でも、参拝は可能みたいで、ご覧の通り自動ドアの開け閉めが可能になっています。
それにしても、神社の拝殿が自動ドアになっているのは初めて見ました!
見どころはこれじゃないのに、妙に感動してしまいました💦
山津見神社の御祭神は神社名の通り、大山津見神(大山祇神)という山の神でありますが、拝殿の前の狛犬を注目すると、一般的な狛犬よりも犬らしい姿になっています。
というのも、山津見神社の山の神は白狼が眷属となり、狼信仰(御眷属信仰)として広まっている様子が分かります。山津見神社には古くから「御眷属」というお札があり、火盗災難を除くご利益が信じられ、そのお札を祀っているそうです。
そう考えると墨虎という賊を捕まえたのも、ひょっとしたら狼(御眷属)の力によって実現できたと考える事もできますね。
この狼信仰は秩父地方が特に有名で、秩父地方の神社には狼の姿の狛犬が多数あり、どれも違う姿になっているので、狛犬巡りもなかなか楽しかったです。秩父地方はどちらかというと、「お犬さま」の呼び名で親しまれているそうですね。
実は後で知ったのですが、この拝殿の最大の見どころは天井に描かれた狼の絵で、天井には200枚以上の狼の絵が描かれています。
訪れた際には、自動ドアに感動するのではなく、天井の美しい狼の絵を見上げましょう。
麓の登山口~山津見神社本殿
さて、それでは山津見神社の本殿へ参りましょう。
社殿右隣に登拝口があるそうなので、そちらに向かうと…
入口のには柵があるので、こちらを開けて中に入ります。
入った後はきちんと閉めましょう。
中に入ると幅の細い一本の登山道が続きます。
比較的緩やかな登山道ですが、茂みも多く視界もあまりよくありませんが、不明慮な箇所は特にありません。
登るにつれ、だんだん角度が増してきました。
途中、岩場ほどではありませんが、岩がむき出しの箇所もあったので注意しながら進みましょう。
この頃の関東地方はまだ色付いていませんが、東北南部の福島はちょうど見ごろだったので、登りながら紅葉を楽しむ事ができます。
暫くすると、おや?なにか建物がありますね。
近づいてみると、どうやら手水舎のようです。
先ほどの麓にも手水舎がありましたが、登山道の途中にもこのような立派な手水舎がありました。
中を覗くと手水というより湧水スポットのようです。
ちょろちょろと清らかな虎捕山の天然水が流れていました。
手水舎の隣には記念碑が立てられています。
この手水舎は記念事業として建てられたそうです。
さて、山頂までは半分を過ぎたところですが、まだまだ登りは続きます。
手水舎からほんの数分でこのような鳥居が現れます。
周囲を見渡すと、巨岩がちらほら見えてきているので、今までの登山道とは一気に雰囲気が変わりました。恐らく山頂が近いのだと思います。
鳥居を潜ってすぐに何やら岩屋のような洞窟のような巨大な岩に遭遇します。
実はこの岩、賊の墨虎が隠れた場所らしく、墨虎はこの場所で刺されたそうです。
中は暗く何人か入れるスペースになっていて、隙間から光が入ってくる造りになっています。
行者の胎内潜りなら安心して入れますが、ここで殺されたとなるとギョッとしますね…
まぁ本当にここで殺されたのかも正直不明ですが、知らない方がよさそう。
巨岩から先はお待ちかねの鎖場が登場!
しかし、鎖場と言っても鎖を必要としない簡単な鎖場です。
そして遂に山頂直下の核心部の鎖場というかハシゴに到着。
ハシゴは鉄状で、いかにも山岳信仰の山にありそうな形をしています。
ハシゴは二ヶ所あり、手前のハシゴと奥のハシゴは角度があり、注意が必要です。
手前のハシゴは簡単ですが、二つ目は見上げると先が見えず、緊張感が増します。
よく見るとハシゴの隣には鎖があり、こちらも趣のある形になっていますね。
ゴール手前で振り返るとこんな感じ。
写真では伝わりませんが、けっこう高さもあり恐怖も感じますね。
ちなみに、ハシゴがちょっと…という方にはハシゴの左奥に迂回コースがあるので、少しでもヤバいと感じた方は迂回コースから山頂へ向かいましょう。
登り終えると広い空間に到着します。
正面奥に本殿らしき建物が見えるので、もうまもなく本殿に到着となります。
周囲を見渡すと、五輪塔でしょうか?
その近くには石の手水鉢のようなものも置かれていました。
五輪塔には明治15年と書かれているので、この辺りはその時代に整備されたのでしょうか?
広場の脇から本殿へ続く道があり、直前には最後のハシゴが待っています。
見上げると巨大な磐座の手前に吸い込まれるように社殿が建てられているのが分かります。
このハシゴを登ると本殿に到着します。
このハシゴの横にも鎖が取り付けられています。
かつては鎖だけだったのか分かりませんが、ハシゴとセットになっています。
そして遂に山津見神社本殿に到着。
本殿の後ろには巨大な磐座が覆いかぶさるように鎮座しています。
由緒書には1051年の創建と書かれていますが、この巨大磐座と言い、明らかに磐座信仰から始まったのではないか?と想像する事ができます。
周囲を見てみると、岩にのめり込むように本殿が建てられています。
本殿の中はどのようになっているのか気になるところです。
ひょっとしたら岩窟のようになっていて、中まで続いているのではないかと思いを膨らましてしまいます。
本殿裏の磐座を見上げると、想像以上に大きな岩である事がお分かりになると思います。
ここまで来ると、やはりこの神社の創建前から既に神体山信仰が麓の人々から始まっていたのではないかと思います。
神体山信仰は秀麗な山や山頂の磐座や磐境、滝など自然を対象にした信仰で、神が山に降りてきて、麓の住民に恵みをもたらすという構図を成し、特に農耕生活にリンクしています。
春に農作業を始めるにあたり山から神を迎え、秋の収穫時に感謝を伝え神送りし、また春には再び神が山に降ろすを繰り返すのが農耕民の生活です。
つまり、神体山信仰は自然を教典とする日本人ならではの信仰であり、この山も遠くから眺めると比較的美しく、山頂には立派な磐座があるので、そのような信仰形態がはじめにあったのではないかと思います。
本殿右斜め前にも小屋のような建物があり、そこには座れるようになっていました。この建物も何か祀られているのか気になるところですね。
隙間からは若干景色が見えますが、展望はもう少し先の方がいいので先に進みましょう。
本殿から先の展望所
本殿から先にも道が続いています。
巨大磐座の横を進む形になり、ここにも鉄ハシゴがかけられています。
磐座をよく見てみると、これは…補整されたのでしょうか?
まぁ自然なんで、いつ何時何が起こるのか分からないので、人工的に施すのも大切だとは思いますね。
意外にスリリングな道になっていて、この鎖が無いと少し怖いかもです。
一旦展望が開ける箇所に出ますが、まだまだこんなものではないので先に進みましょう。
最後にトラロープを登れば展望に到着します。
それにしてもトラロープって…墨虎をイメージしているのでしょうか?
そして遂にちょうど磐座のてっぺんにあたる展望所に到着しました。
虎捕山の山頂ではありませんが、ここが最大の展望所なので景色を見てみましょう!
展望は360度ではないものの遠方の山まで見渡せ、特に北西部はかなり開けた展望を楽しむ事ができます。
一番景色のいい北東部には蔵王と手前は伊達市でしょうか?街並みが広がっていますね。
蔵王はやはり目立ちますね!
拡大してもその迫力さが伝わると思います。
あのどこかに巨大なお釜があるんですね。
南西方面に目を向けると吾妻連峰も見えました!
少しガスがかかっていますが、こちらも百名山なので立派な山容が目立ちます。
更に南の方には那須の山も見えるそうですが、さすがにここからだとはっきり見えません。もっと空気が澄んでいればきっと確認できると思います。
東側も景色は見えますが、木々の隙間から覗く感じになっています。
特に有名な山はありませんが、こちらの景色もなかなかいいですね。
しかし、さすがにここからは海は見えません。
ちなみに展望所の奥には何やら祠のようなものが確認できます。
祠はなかなかの巨岩の上に安置されていて、この岩を登らなければなりませんが…
登ってみると、そこのはポツンと祠があります。
パックのお酒が奉納され、お賽銭もされているようなので、誰かが拝みに来ている様子が分かりますね。
ちなみにここから僅かですが、霊山も見えます。
写真右側を拡大すると岩が露出しているのが分かると思います。
展望所は巨大磐座のてっぺんなので、周りは岩だらけになっています。
よじ登る事もできそうですが、危険な岩は無理に登りませんでした。
スペースもそこまで狭くはありません。
が、こちらにも転落防止のポールと鎖が付けられています。
下を覗くと少し怖かったです。
下山後は霊山に行こう
虎捕山からも僅かに見えましたが、すぐ隣には福島の百名山、通称うつくしま百名山に選ばれている霊山に登る事もおすすめです。
霊山は山全体が岩で覆われた岩山で、その景観から一大の山岳信仰の対象となっていた山であり、かつては三千六百もの僧坊が営まれ、山中には霊山寺という天台宗の寺が建立され、北の比叡山とも言われるほど霊験あらたかな山です。
現在は寺院の面影は無く、登山道の一部に護摩壇や蟻の塔渡りなどの名前が残され、確かに修験者たちの修行の場であった事を感じられる場所が点在しています。
霊山は福島の観光スポットとしても有名で、特に秋には迫力満点の奇岩に纏うように紅葉が彩られ、素晴らしい景観美を楽しむ事ができます。
最後に
虎捕山は朝廷に反抗していた賊の名前から付けられた名前で、山中にある山津見神社の由緒にもその事が書かれていましたが、本来は山頂の巨大磐座をご神体とする純粋な原始山岳信仰の山だったのではないかと思える山でした。
登山道は細いものの、特に道迷いの心配もなく、山頂まで30分前後で到着でき、適度なスリルを味わえ、霊山とセットで登るのもおすすめなので、ぜひ一度訪れてみてはいかがでしょうか。