前日の雨から一転、この日は素晴らしい天気に恵まれた山行となり、虎捕山登山後は福島県の観光スポットとしても有名な霊山を訪れました。
霊山と書いて”りょうせん”と読み、漢字だけ見ると恐ろしい山のイメージですが、霊山は奇岩怪岩が点在する景観から、古くから山岳信仰の山としての歴史を持ち、かつては山中に山城や寺社が建立し、平安時代には三千六百もの僧坊が営まれていたほど、東北随一の霊場として栄えていました。
現在は宗教施設はごく一部しか残されていないものの、登山道の途中には山岳信仰の面影が残る名所や巨大磐座として崇敬されていただろうと思えるような場所がいくつもあり、近年はハイキングや観光として楽しめる山になっています。
また、霊山は紅葉スポットとしても有名で、奇岩怪岩を成す恐ろしい岩肌をカラフルな紅葉が纏うその光景は何とも美しく、特に秋にはおすすめスポットとして紹介されています。
今回は霊山の史跡と紅葉を巡る周回コースを選択し、距離はそこまでないものの、見どころが多く登り応えのある山行だったので紹介したいと思います。
- 霊山のアクセス、駐車場
- 登山口から絶景ポイント宝寿台
- 絶景ポイント見下し岩、国司沢、天狗の相撲場
- 史跡エリア護摩壇から霊山城跡
- 現存する唯一の史跡、日枝神社
- 霊山最高地点、東物見岩~猿跳岩
- 霊山信仰発祥の地?大山祇神社跡
- 下山後はりょうぜん紅彩館へ
- 虎捕山もおすすめ
- 最後に
霊山のアクセス、駐車場
アクセス
東北中央自動車道「霊山飯舘IC」より車で約5分で到着します。また、相馬方面から来られる場合は相馬玉野ICで下車し、約10分で到着します。
駐車場
登山口入口に無料駐車場があります。
約80台ほど駐車可能です。
駐車場には公衆トイレも完備されています。
登山口から絶景ポイント宝寿台
登山口は広く、入口には見どころや登山道の案内がいくつも掲げてあります。
鳥瞰図を見ると、山全体が砦のようになっている事が分かりますね。
典型的な山城で、南北朝時代には宗教施設と共に攻められた歴史があるそうです。
最初の絶景ポイントである宝寿台までは広い登山道で、特に険しい岩場は無くスムーズに進む事ができます。
登るにつれ巨大な岩が登場し、いよいよここが岩山である事を思い知らせる景観が広がってきます。
そして最初の絶景ポイント、宝寿台の入口に到着です。
宝寿台へたどり着くにはこのハシゴを登らなければなりません。
見上げると、なかなかの急な岩場で意外と高さもあります。
ハシゴはしっかりとしていますが、登ってみるとやはり緊張します。
なるべく前を見てよそ見せずに一気に登りましょう。
ハシゴを登りきると、展望のよい広場に到着します。
スペースはそこまでありませんが、断崖になっているので注意しながら景色を楽しみましょう。
遠くには吾妻連峰が眺められ、すぐ隣には岩肌を彩る紅葉が何とも素晴らしい。
正面の展望もよく、麓にはりょうぜん紅彩館とこどもの村キャンプ場でしょうか?
そちらも確認できますね。
しかし、標高が1000mも満たないのに、高度感抜群の光景です。
さすが岩山!
展望所は断崖になっていて、近づくとかなり怖いです…
展望所として開放されていますが柵などは一切設けておらず、ギリギリ近づこうと思えば行けるので、近づく時は注意しながら進みましょう。
絶景ポイント見下し岩、国司沢、天狗の相撲場
最初の絶景ポイント、宝寿台から1、2分で次の絶景ポイントである見下し岩に到着します。
先ほどと景色は変わりませんが、こちらの見下し岩は先端が突き出すような形になっていて、先端に立つことも可能ですが、真下はもちろん崖!!
まるで度胸試しのステージのような造りになっており、勇気のある方は先端に立って景色を堪能すると思いますが、人が一人やっと立てるくらいの幅なので、相当怖いです…
見下し岩の後は国司沢方面へいきましょう。
登山道もゆったりとして非常に歩きやすい道になっています。
そして国司沢に到着。
先ほど眺めた岩が更に近くで見られる展望になっています。
ここは登山道沿いにある展望所なので、特に危険箇所はありません。
そして次は天狗の相撲場へ。
名前から修験道の臭いが漂いますがどんなところなんでしょう。
展望はそこまでではありませんが、目の前に巨大な岩の柱がいくつも確認できます。
妙義山にもこのような光景があったと思いますが、天狗はあの岩の先っぽで相撲でもしていたのでしょうか?
史跡エリア護摩壇から霊山城跡
さて、天狗の相撲場から護摩壇までは少し歩きます。
ここまでほとんど平坦な道のりでしたが、歩くにつれ紅葉の色も濃くなってきます。
見上げればカラフルな葉がよく見えます。
護摩壇への分岐点
登山口付近には巨大な岩が見られましたが、暫くは岩は見られませんでした。
ここから先はいよいよ巨岩沿いを歩く登山道になるそうなので、ワクワクします!
暫く進んでいくと親不知・子不知というポイントに到着し、そこから先がいよいよ断崖歩きの道になっています。
麓で見た地図によると、この辺りから霊山の遺構エリアということになります。
護摩壇への道はスリル満点の岩場になっていて、巨大岩をトラバースする形になっています。展望もよく、思わず立ち止まってしまう光景が広がっています。
途中狭い部分もありますが、しっかりと柵が取り付けられているので、そこまで怖い感じはしません。
見上げると巨大な岩壁を眺める事ができます。
あの上はどうなっているのか、気になるところですね。
進んでいくと岩のトンネルもあります。
この辺りは子供たちが喜びそうな景観の道になっています。
まぁ大人が歩いても楽しめそうな場所です。
トンネルを抜けると護摩壇に到着。
思いっきり護摩壇と書かれていますが、護摩壇とは護摩の事ですよね?
この場所で護摩を焚いていたのかは分かりませんが、周囲を見渡すと、大きな岩に囲まれた空間になっていて、よく見ると岩屋のような造りにもなっているのが分かります。
いずれにせよ、この場所で何らかの宗教行為が行われていた雰囲気の漂う場所で、護摩と書かれている事からやはり密教系の行者がこの山で修行に励んでいた事も感じますね。
よじ登る事のできる岩もあったので登ってみると、今まで歩いてきた道を振り返る事ができます。見上げると岩壁の威圧感が半端ないです!
もちろん景色も素晴らしく、麓から遠くには吾妻連峰や蔵王まで幅広く眺める事ができます。しかし、この日はお昼にかけてガスが発生したらしく、遠くの山は見えなくなりました。
その後も暫く岩場は続き、軽い鎖場や鉄のハシゴなど多少のスリルを味わいながら進める登山道になっています。
護摩壇エリアを抜けると再び落ち着いた雰囲気の道に差し掛かります。
紅葉も綺麗で、見上げるといくつものカラフルな木々を楽しむ事ができます。
国司館跡に到着。
かつてはここに国司館が建てられていたそうですが、現在はご覧の通り跡形もなく、ただ広い空間があるだけです。
奥には国司館跡と書かれた標識がポツンと立っています。
国司館のすぐ隣には霊山城跡地があります。
こちらも現在はただの空間になっていて多くの方の休憩所になっています。
東北随一の山岳仏教の拠点となっていた霊山は南北朝時代には南朝方の拠点でもあり、かつては霊山寺と共に霊山城も建てられていたそうです。しかし、正平2年(1347)に北朝方に攻められ落城し、国司館と同様跡形もなく焼失してしまいました。
現在はご覧の通り、そんな事があった事など一切分からず、穏やかで和ましい雰囲気の休憩所になっています。
ちなみに霊山城跡地にはトイレも完備されていました。
トイレの形が城っぽくみえるのは、やはり霊山城を意識して作られたのでしょうか?
現存する唯一の史跡、日枝神社
さて、霊山跡から先はおすすめルートであれば最高峰の東物見山へ向かうはずですが、私はどうしても奥にある日枝神社と霊山寺跡地も見てみたいと思い、少し先にある日枝神社方面へ進みました。
日枝神社までは下りが続き、帰りは登りになりますが、そこまできつい道ではありませんのでご安心を。
そして日枝神社に到着。
霊山寺は天台宗の寺院で、天台宗の総本山比叡山延暦寺を開いた最澄の弟子である慈覚大師円仁によって開かれた寺院です。
延暦寺の隣には日吉大社がある事をご存知だと思いますが、この日枝神社も日吉大社と同じ神が祀られ、後に神仏習合思想から護法神に位置づけられ、延暦寺と密接な関係を築かれた神社であります。
そのために、霊山にもこような日枝の神が祀られ、鳥瞰図にも書かれていた通り、本場の延暦寺に沿って山王一宮、日枝神社が鎮座されています。
先ほどの話の通り、霊山は北朝方に攻められ落城と共に霊山寺などの宗教施設も同時に焼失してしまった歴史があります。
そんな中、霊山の中に辛うじて宗教施設が残されているのがこの日枝神社で、これはかなり貴重な神社ではないかと個人的に思いました。
改めて社殿を見ると、社殿自体はこぢんまりとした建物で、中を覗くと小さなお社が一社あるだけでした。
本来は鳥瞰図の通り、もう少し大きな社殿で立派だったと思いますが、寺院が全て焼失した中でここまで残されているのも大変貴重な存在だと思います。
日枝神社社殿の隣には霊山寺奥之院千手観音堂がありました。
こちらも辛うじて霊山寺の一部が残った貴重な堂宇だと思います。
中を覗くと中央には石で作られた千手観音が今でも残されています。
鳥瞰図をよく見ると、境内中央奥に日枝神社の社殿、手前左方向に千手観音堂が建てられている様子が描かれ、配置もまさに当時のままである事が分かりますね。
ちなみに、日枝神社の反対側には霊山寺跡地があります。
こちらも先ほどの霊山城跡のように広い空間になっていて、地面に注目すると礎石が所々点在し、明らかに建造物の跡である事が分かります。
かつては北の比叡山とまで言われた東北随一の天台宗の霊場も、今となってはこのような形しか残らないのは非常に残念に思います。
霊山城跡と日枝神社の間には実はこれまた素晴らしい絶景ポイントがあり、ここはおすすめポイントとして紹介されなかった隠れスポットなので紹介しましょう。
その名は釣瓶落岩というポイントで、こちらも断崖の巨岩を登る展望所になっています。
入口にはこちらにもハシゴというよりは階段が取り付けられていています。
けっこう急な階段なので、登る時は注意しましょう。
登り終えると、これまた素晴らしい展望が目の前に現れます。
遠くの景色はあまり変わりませんが、断崖の上なので立っているだけで緊張感の増す場所です。
街並みもよく見えますね。
すぐ横には巨大な岩壁があり、周囲の紅葉とのコントラストが美しく、見とれてしまいます。
この場所は登山口に書かれたおすすめポイントには選ばれていませんが、日枝神社まで行かれた方にはぜひ立ち寄ってほしい場所ですね。
霊山最高地点、東物見岩~猿跳岩
さて、霊山最高地点へ向けて東物見岩方面へ行きましょう。
再び分岐点まで戻り、最高地点へ!
こちらの登山道も紅葉が綺麗で何度も見上げながら歩いてしまいます。
そして最高地点の東物見岩手前に到着。
物見岩を登るには岩場を進む必要があります。
鎖が取り付けられていますが、鎖を触るほどの岩場ではありません。
最高地点の東物見岩に到着しました。
標識には東物見岩と書かれていますが、ここが霊山の最高地点という事なので、山頂みたいなものだと思います。
霊山山頂からは北部方面の展望がよく、ご覧の通りの展望で、山は見事な紅葉で彩られています。
拡大すると海まで眺められます。
あちらは仙台方面かな?いや、仙台はもう少し先ですかね。
正面右奥に湖が見えますが、あの湖は宇多川湖でしょうか?
蔵王山もよく見えます。
さて、次のポイントは恐怖の蟻の塔渡り!
蟻の塔渡りと言えば戸隠山で有名ですね。しかし、戸隠山に限らず岩山ならばこの名前の場所もよく聞きます。
難易度は様々で、やはり本場の戸隠山ほどの塔渡りはあまり無いと思います。
霊山も山岳信仰の山なので修行の場もいくつかあり、蟻の塔渡りもかつての修行の場であったと思います。
そんな霊山の塔渡りはご覧の通りで幅も広く、危険箇所までは言えないレベルのポイントになっています。
しかし、下を覗くとそれなりの高さで、下を見ながら歩くと多少怖いので、しっかりと見極めながら進みましょう。
そして、蟻の塔渡りを過ぎると、猿跳ね岩というポイントに到着します。
このポイントも断崖の岩なんですが、ここはなかななかのスリイングポイントです。
まず絶景ポイントまではこの鉄の階段状のハシゴを渡りますが、完全に透けていて、しかも高度感もあります。
恐怖の橋を渡りきると目の前に絶景が広がります。
先ほどの東物見岩とあまり変わりませんが、こちらもいい景色ですね。
ちなみに猿跳ね岩はどうやらあちらの岩のようですね。
残念ながらあそこに立つ事はできませんが、何で猿跳ね岩なのでしょうか?
猿もビックリして跳ねるからなのか?それともまた別の意味があるか気になるところですね。
猿跳ね岩から大山祇神社までの間には多くの奇岩、怪岩があり、歩きながら奇景を楽しむ事ができます。
霊山信仰発祥の地?大山祇神社跡
下り続けると弁天岩入口の他、大山祇神社方面への入口があります。
ここはまず、大山祇神社方面へ行ってみましょう。
矢印の方へ進んでいくと、突如巨大な岩の柱が現れます。
山の中にいきなりこのような岩が現れるのは驚きです。
巨大な岩と岩の隙間に道があり、今までの雰囲気とは違うなにかを感じます。
そして広いスペースに到着。
周囲を見渡すと見事に岩壁に囲まれた空間になっていて、先ほどの護摩壇周辺に比べると荘厳な雰囲気が漂います。
さらに細かく調べると…
奥の岩と岩の間に木の柱のようなもにが確認できます。そしてそこには祠のようなものもありました。
近づいてみるとご覧の通り、小さな祠が安置されていますね。
実はこの場所、かなり高い位置にあり、岩をよじ登らなければたどり着けない場所になっています。
そして、岩壁の間には木が取り付けられていますが、これは別のお社か何か建てられていたのでしょうか?
自然現象としては不可解な置き方になっているので、これは人工的なものだとは思うのですが…
広い空間のところにはこれまた威圧的な岩壁があります。
見上げると大きな岩が挟まっており、今にも落ちてきそうな雰囲気になっています。
なんでしょう…これは筑波山にある弁慶七戻りの岩を思い起こしますね!
その真下に小さなお社があるのも物凄いスリリングな光景です。
お社には真新しい榊と周辺には御幣が立てられていました。
どうやら今でも参拝に来られる方がいるそうです。
お社周辺は窪みになっていて、岩窟状になっている事もわかります。
岩壁を見てみると水がしみ込んでおり、滝にはなっていませんがぽたぽたと滴が落ちている様子が伺えました。
霊山は天台宗の僧によって開かれ、先ほどの護摩壇や霊山城跡、日枝神社周辺に宗教施設が建てられ、霊場としての歴史を紡いできましたが、この場所に祀られている神様は僧たちが入山する以前から信仰されていたのではないかと思うほど幽玄な雰囲気を醸し出しています。
ましてや、大山祇神社と言われているので素朴な山の神として祀った可能性も高く、大きな社や城の跡よりもこのような岩と一体化した小さな祠を発見した方が個人的には好きで、それはまるで世界最大の流域面積を誇るアマゾン川の最初の一滴を発見したときの感動と同じくらい感動しますね。
大山祇神社の後は弁天岩と日暮岩がおすすめで、ここからは展望というよりも、山肌の紅葉が綺麗で、展望所もスリル満点の岩場になっていて、岩場好きにはたまらない場所になっています。
弁天岩は複雑な岩場になっていて、周囲が絶壁になっているので歩く際は注意が必要です。
展望も素晴らしく、紅葉がより一層美しいですね。
弁天岩から少し下った所には日暮岩という箇所もあり、ここからも展望と紅葉が綺麗に眺められます。
弁天岩と同様、断崖なので歩く時は気をつけましょう。
弁天岩とあまり変わらない光景ですが、ここが最後の絶景ポイントになるので立ち寄ってみましょう。
下山後はりょうぜん紅彩館へ
登山口近くにある宿泊施設で、日帰り登山者には下山後のお風呂に利用する事をおすすめします。
また、食事処も完備されているので、温泉と共に食事も楽しめる施設になっています。
虎捕山もおすすめ
霊山を訪れたのなら、向かい側に位置する虎捕山にもぜひ登っていただきたい。
虎捕山は原始山岳信仰の名残が強く山頂には巨大な磐座があり、その巨大磐座にのめり込むようにお社が建てられています。
虎とは橘墨虎という霊山周辺にいた賊の事で、その賊が虎捕山で確保された事から虎捕山と名付けられたそうですが、麓の山津見神社や山頂の奥宮を見ると、本来は純粋な山の神として崇敬された山である事を肌で感じます。
山頂部は多少のスリルを感じられますが、麓から山頂までは距離も短く霊山とセットで登る事も可能なので、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。
最後に
いかがでしょうか?
今回は東北の紅葉スポットである霊山を紹介しました。
霊山はかつて東北随一の天台宗の山岳信仰の山として開かれ、霊山城まで建てられた由緒ある信仰の山で、現在は宗教施設がほとんど残されていないものの、登山道にはここが確かに霊場であったと思われる面影を感じられる場所が多く、登山をしながら史跡探訪をしている気分を味わえる山でした。
現在はハイキングコースとして整備され、また東北の紅葉スポットとして取り上げられています。高速道路も開通され、近年は車でも来やすいので、ぜひ紅葉の季節には霊山に訪れてみてはいかがでしょうか。