四月上旬、天気の良い休日に下仁田町の物語山を登りました。
西上州には10年近く登山や景勝巡りを行っていますが、まだまだ登っていない山や観光スポットが多く、今回は久しぶりに下仁田町の山を登る事になりました。
物語山は下仁田町の西部に位置する標高1019mの山で、山中にはメンべ岩という巨岩があり、麓からもよく見える下仁田町を代表とする奇岩です。
物語山というなんともミステリアスな名前の由来は昔、落城の際に城の財宝をメンべ岩に埋めたという伝説から「物語山」になったそうで、”物語”というからには様々なエピソードや伝説があるのではないか?と想像が膨らんでしまいます。
それはさておき、今回はメンべ岩という麓からよく見える下仁田町のシンボル的存在な物語山を麓からピストンで登り、更に登山道から少し外れた道には阿唱念の滝という神秘的な滝を巡ったので、併せて紹介したいと思います。
スポーツランド下仁田~コル
阿唱念の滝との分岐点を物語山方面へ進んでいきます。
スタート付近は道幅が広く、緩やかな登山道を登る形になっています。
歩きやすい道かと思いましたが、途中、このような道が陥没した箇所に遭遇しました!
ものの見事に崩れ落ち、よそ見をしていたら落ちかねないので、ここには注意しましょう。
陥没ゾーンを過ぎても緩い登りが続き、相変わらず川沿いを歩くコースになります。
急登じゃない分、楽ちんでいいんですけどねぇ
ここまで道迷いの心配はなく、看板や案内も特に設けられていませんが、時折ポツンとこのような看板が立てられています。
そして途中から、伝説のメンべ岩が登場します。
山から突如にょきっと顔を出すように聳えています。見る角度によって形が違いますね!正面から見ると観音様、横から見るとゴジラのように見えるのですが…
それにしてもなぜあそこだけ巨岩が聳えているのか不思議です。何か伝説が語られていても不思議ではありません。登る事も不可能です。
ひん曲がった看板を発見。
ここまで緩い坂道でしたが、ここからいよいよ急登に差し掛かりますので、気を引き締めて参りましょう。


先ほどまでとは打って変わって、ご覧の通り急な登りが続きます。
道幅が狭く、すれ違うと嫌な感じの道ですね。
暫くすると今度は石が散りばめられたガレ場のようなコースになります。
これは自然に敷かれたのか分かりませんが、急な上にガレとなると厄介な登りになります。足が持っていかれて凄く歩きにくいです。
ガレ場の後はロープ場
特に持ちながら登らなくても進めますが、帰りは握って下った方がいいかもしれません。
山頂直下コル~西峰
急登を登りきると山頂直前のコルに到着します。
西峰と物語山山頂に分かれるみたいですね。ここはまず西峰から参りましょう。
なぜかこの看板もひん曲がっています。
西峰までは再び急坂を登る羽目になります。
しかし、コルから展望所まではほんの2、3分なので苦労しません。
急登を終えると物語山山頂の標識が現れます。山頂と書かれていますが本当の山頂は反対側にあるそうです。なぜここに山頂の標識があるのだろう?
標識の周囲には枝が多いですが、この枝の先が展望所になっています。
まず目の前に雪化粧の神々しい浅間山が見えます。
周辺の山と違い、物凄いオーラを感じますね。
近場の山では妙義山がよく見えます。表妙義と裏妙義、奥妙義の高岩まではっきりと眺める事ができます。
午前中なのでよく見えませんが、平地の方の展望も開けています。
拡大コレクション
浅間山をアップ。
南牧村の山からも見える浅間山、場所によって表情が違うのもまたよいところです。
妙義山も拡大しました。
相変わらずのギザギザ岩稜を成し、日本トップレベルの鎖場を誇る難関の山です。見るからにヤバそうですが、また挑戦しようかな?
実は展望箇所はもう1つあり、少し下った所に荒船山を眺める事のできる場所に到着します。
隙間からですが、ご覧の通りはっきりと荒船山の山容を確認する事ができます。相変わらず恐ろしいほど真っ平らな山頂部です!
ちなみにここからも浅間山を眺める事ができます。
上手くいけば荒船山と一緒に写真を撮れるので、この場所にも行ってみましょう。
ただ、ここは崖になっているので写真撮影する時は注意が必要です。
山頂コル~物語山山頂
さて、再びコルに戻ってきました。
次は本当の物語山山頂へ向かいましょう。
ひん曲がってますねw
出だしは少し急な道なものの、暫くするとそこまでの急登ではありません。先ほどの西峰の方が角度はあります。
そしてこちらも数分で山頂に到着します。
正面には標識が立てられ、こちらも同じく物語山山頂と書かれています。標高的にはこちらの方が高いので、恐らくここが本当の物語山山頂になります。西峰の標識は記念撮影用の為に建てられた疑惑がありますが、標識の周囲に枝が多く記念撮影には向いていない標識になっています。なんだかもったいない気がしますが…
ちなみにこちらも枝が邪魔して展望無しになっています。
標識の先にも道があり、行き止まりの所に祠がありました。
この祠少し変わった形になっていて、屋根のような平べったい岩が二枚乗せてある祠でした。また、祠の両サイドには細長い剣のような岩が二つ並べてあります。剣状の岩は地面に埋めてあり、最初からこのような形をとっていたと思われます。これは注連柱かな?しかし、祠に合わせた注連柱は見た事がありませんし、注連縄が張られた跡も見られませんでした。
ちなみに西峰、頂上の他、南峰というポイントもあるそうで、行ってみました。
しかし、分岐点の標識がご覧の有様で、これでは南峰の存在がわかりません。
分岐点から別のルートがあったので、そちらに行ってみると…
独特なタッチで書かれた南峰の標識が木にかけられているだけで、展望は一切無しの広場になっています。
まだ先が続いているようですが、地図には道が載っていないのでここで引き返す事にしました。
一大霊場の跡?阿唱念の滝へ
さて、下山後は阿唱念の滝へ行きましょう。
物語山の登山口から阿唱念の滝と書かれた看板の方へ向かいます。
最初は平坦な道ですが、倒木や踏み跡が少なく、こちらはあまり歩かれていない様子でした。
ここが阿唱念の滝への入口です。
入口には祠があり、階段の横には川が流れています。これは滝から流れ出した川かな?


スタートからいきなり急登の階段で、途中から不明慮な道になります。地図ではバリエーションルートの表記になっていて、その通りかなり歩きにくい道になってきます。


途中、川を渡る箇所があります。
川というより滝みたいなっていて、流れ落ちる箇所の横を歩く形になっています。
ここは落ちないように進みましょう。


川を越えると更に不明慮な道になります。
ピンクテープもあったり無かったりするので、要注意です。
まぁ結局川を登ればたどり着くので、基本迷う事はないとおもいますが…
そして歩き続けると突然巨大な岩壁が出現し、大きな岩窟も現れ始めます。
岩窟の周りには石仏や石碑が置かれています。いよいよ阿唱念の滝が近づいてきた証拠でしょうか?
石仏は不動明王や観音像が多く、密教系の僧らが安置したと思われます。


中には梵字のみ書かれた石碑もあり、やはり真言系の僧たちの修行の場である雰囲気が漂います。
そして遂に阿唱念の滝に到着です。
目の前には巨大な岩壁が出現し、ここから先は行き止まりになっています。
見上げると滝が流れ落ちている様子が分かります。
滝の水量はそこまで多くないので、滝壺まで十分に近づく事が可能です。むしろ滝行をするのにちょうどよい水量で、実際に打たれてみたくなります。
見上げるとこの滝も立派な裏見の滝の構造になり、滝の裏にまわる事もできます。
不動明王は滝の真裏にあり、高さ50センチくらいでしょうか?台座の上に安置されていました。また、台座の周辺には無数の石が積み重なれている様子も分かります。
この不動明王は天保7年(1836年)に作られ、背後には不動明王のシンボルである火焔がはっきり描かれています。顔は黒ずんでいるものの憤怒の形相がはっきりされ、全てのものを焼き尽くすという気迫が伝わってきますね。
先ほどの岩窟や周囲の石仏と言い、やはりこの一帯を一大霊場にしようとしていた事がよく分かる場所になっています。
下仁田や南牧村周辺には滝や奇岩怪岩が多数点在し、多くの密教系の僧たちが目を付けていた場所である事は大いに想像がつくと思います。私も今まで南牧村や下仁田の景勝地を訪れ様々な奇岩や滝を目の当たりにし、言葉が出ない光景を何度も見てきました。恐らく言葉が出ないほど圧倒される光景に人は何かを感じ、そこに神仏を祀り自然と一体化するための行場へ導いていくのだと思われます。
空居上人も天保5年に下仁田を訪れ、この阿唱念の滝を見てこの一帯に何かを感じ取ったからこそ、寺院を建てようとしたに違いありません。
そして、人里離れたこの場で、流れ落ちる滝の音、風の音、鳥のさえずりを聞きながら不動明王の力を感得するための修行に励もうと思ったのかもしれませんね。
しかし、残念ながらこの場に寺院を建てる事は無く石仏と石碑は残されています。やめた理由が気になりますが…
ここで注目していただきたいのが、滝の岩壁を見てみると、梵字で書かれた石碑のようなものが確認できます。拡大すると天保という文字も見えます。
梵字が書かれた石板は恐らく端から登れば置く事はできると思いますが…
しかしその隣にある不動明王…あれ、どうやって安置したんだろう???(左の赤丸)
何気なく安置されている不動明王、実はあそこに行くには見た限り、到底たどり着けない場所になっている事が観察してみて分かりました。
梵字が置かれた空間から少し左に離れた空間に不動明王は安置され、どう考えても足場や掴む箇所の無い岩壁になっていました。では反対側からトラバースして安置したのかな?と思い、左の岩壁を注目してもやはり真ん中くらいで掴む箇所は見当たらず…ならば上(滝上部)からつるして安置した?と思いましたが、上からつるして安置するほど余裕もありません…
あの不動明王…一体どうやって安置したんだろう…と、眺めれば眺めるほど謎は深まるばかりです。
という事はこの阿唱念の滝には二体の不動明王が安置されている事になります。崖の不動明王と滝の下にある不動明王は同じ作者なのだろうか?そこも気になるところですね。
阿唱念の滝は物語山登山口から40分くらい歩いてやっと到達できる場所にあります。
道も険しく迷いやすいルートなので、ある程度の覚悟は必要になります。しかし、実際に目の当たりにすると、巨大な岩壁の中心から糸のように流れ落ちる滝は美しく、豪快ではないものの非常に神秘的な光景であると感じる事ができます。特に崖に安置された不動明王は一体どのように置かれたのか想像もつかず、ミステリー要素のある場にもなっているので、興味のある方はぜひ物語山登山の後に立ち寄ってみましょう。
物語山のアクセス、駐車場
アクセス
上信越自動車道下仁田ICから車で約20分。
駐車場
登山口のサンスポーツランドに無料駐車場があります。
施設には利用時間がありますが、駐車場は随時開放されています。
最後に
メンべ岩という巨岩を有する物語山は昔から伝説が語られ、山名もそのまま物語山という不思議な名前に至り、まさにミステリアスな山だと思います。
多少の急登はあるものの、山頂部の西峰からは雪化粧の浅間山が神々しく、下仁田の名峰を見渡す事のできる展望は大変素晴らしいです。
また、物語山近くには阿唱念の滝という裏見の滝があり、滝周辺には石仏や真言の書かれた石碑がまばらに安置され、かつての霊場としての面影が残る神秘的な空間になっています。時間に余裕のある方はぜひ物語山と併せて訪れてみてはいかがでしょうか。