素晴らしき日本の景色たち

主に日本全国の山や景勝地、観光スポットを紹介します

左下り観音【会津三十三観音霊場】第二十一番札所の素晴らしい懸造りを見学

みちのくの旅、最終日は福島県を訪れました。

天気の心配もありましたが、何とか晴れ渡る空が広がり、午前中は猪苗代湖周辺を観光し、午後は会津方面へ足を運びました。

そんな中、会津の山奥に以前から気になっていた懸造があり、市街を観光した後に向かう事になりました。訪れたのは会津三十三観音巡りの二十一番に選ばれた左下り観音という堂宇で、こちらは巨大な岩窟に寄り添うように建てられた、いわゆる懸造を成し、迫力満点な建造物になっています。

帰り際に訪れ時間に焦りがありましたが、実際に目の前にすると時間を忘れるほど素晴らしい建造物でした。

今回はみちのくの旅、最後に訪れた左下り観音を紹介したいと思います。

左下り観音の全貌

本当は観音堂のすぐ近くに駐車スペースがあったのですが、下調べ不足により麓から歩いてしまい、10分程度の登山状態になってしまいました。

見上げるほどの高さを持つ左下り観音は高さ約15mあり、堂宇の背後は巨大な岩窟になっていて、”懸造”という構造の堂宇なので、ご覧の通り岩窟と一体化された風貌になっています。

由緒によると創建は鎌倉時代始めと書かれていますが、別の看板には建長7年(830)徳一大師が建立したと書かれていました。また、当初は北向きに建てられたそうで、建築様式も禅宗様形式堂宇であったと推測されています。

しかし、創建が830年と平安時代のものであり、禅宗はいわゆる鎌倉新仏教の宗派の1つなので色々矛盾が生じています。

ここまで立派な懸造なら恐らく山岳信仰の影響により建てられた堂宇だと思うのですが、いかがなものでしょう。周囲には磐梯山や飯豊山、更に出羽三山と、東北を代表する山岳信仰と密接な関係もあったと思うので、やはり当初は修験道の影響下で建立された懸造だと思います。また、向きも北から東に変わった事も何か意味があるのかも気になるところです。

左下り観音の内部

外見を眺めるだけでも興味深い左下り観音ですが、堂宇内の回廊を歩く事も可能なので早速行ってみたいと思います。

見上げるとどうやらあの岩に支えられた橋が入口のようです。

それにしても物凄い所に掛けられていますね。

橋の入口まで来ましたが、由緒の通り現在は東向きが正面になり、その証拠に鰐口がぶら下がっているのが分かります。

残念ながら扉を開ける事はできませんが、隙間から覗くことはできました。覗いてみるとやはり仏座は東の方を向いていて、何体もの仏様が安置されています。その正面には扉もあり、あの扉の中に本尊が祀られているのですね。

それにしても何で向きを東に変えたのだろう?

今まで訪れた懸造は決して多くありませんが、どの堂宇も正面は崖に面した方向を向いています。ちなみに出雲大社も社殿は南を向いているにもかかわらず、神座は西を向いている事は有名です。神座が西を向いているのは、出雲大社の御祭神である大国主命は海の彼方の常世からやってきた説や朝鮮半島の敵を睨いるから、あるいは旧石器、縄文時代に重宝された黒曜石の産地である隠岐島を見つめているなど、様々な意見が挙げられています。

左下り観音の正面も北から東に変えられた事もやはり意味があるのか、真相を知りたいところですね。

回廊です。

トラロープが至る所に巻かれ、身を乗り出させないように注意を施されています。確かに歩いていると傷んでいるところもいくつか確認でき、歩きながら少し緊張します。

見ての通り高欄もかなり傷んでいる様子で、さすがにこれに寄りかかると危険だ!と見るからに感じました。

奥まで歩くと、岩窟が見えます。その中には石仏らしきものがありますが…

あちらの岩窟は裏から入れるそうなので、早速行ってみましょう。

鰐口が付けられた正面から裏に廻れるそうです。

入って見ると中は暗く、堂宇と岩窟の隙間を歩く感じになっています。それにしてもこの空間は凄いですね!

その奥を覗くと洞窟のような構造になっていました。洞窟内には光が注いでいました。

岩壁にぽっかりと開いた空間は崖まで数メートルあり、その下には石仏が安置されていますね。

よく見るとどれも首が無い?ように見え、これがいわゆる無頸観音(くびなしかんのん)でしょうか?

赤い前掛と帽子から、お地蔵様みたいに見えますが、どれも頭部が見当たらず、首の無い状態で安置されているようです。この観音様は越後の人が無実を訴えこの観音堂に救いを求めましたが、打ち首にされ、その首を越後に持って帰ると観音の石首であった!という言い伝えがあり、それから無頸観音と呼ばれるようになったそうです。

恐ろしいエピソードの観音様ですが、観音様は人々の苦しみを救ってくださる仏様です。懸造や岩窟には観音様を祀られている事が多く、秘境の地で祀られながら私たちを見守る姿に感動します。

ちなみに無頸観音が安置されている洞窟の先は崖になっているので要注意!

覗くと隣には堂宇の柱が見えますが、ここは手すりなど一切ありませんので、先端まで行かれる際は足元に気をつけましょう。

振り返ると洞窟は狭く、見事にぽっかりと開いた状態になっています。奥には柱も見えます。それにしてもよくこの洞窟と堂宇を組み合わせたものですね。

さて、一旦外に出て、懸造の柱部分に注目すると、なんと板が敷かれ階層のようになっていました!まさかそれぞれの階に登れるのではないかと思い、下から潜って見ると…

階段が設置されていました!

どうやらここから登れそうなので、登ってみる事にしました。

懸造は岩から垂直に柱を組み合わせて出来た建造物で、下から眺めるとその様子がよく分かります。複雑で、しかも緻密な計算により柱を建てられ見事にバランスの取られた構造を眺めるのが気に入っています!

一階から二階へ続く階段の造りも絶妙です!

よくぞここまで設計されたものですね。

階段を登ると二階になり、ここには手すりも付けられた階になっています。

しかし、懸造で柱の部分に部屋というか階を設けられているのは初めてです!これは珍しいのでしょうか?イマイチよく分かりませんが、この場所ではどのような事が行われていたのだろう。

背後はご覧の通り岩と柱が見えます。まさに懸造の内部に潜入している感が湧いてきます。

最上階の階段があり、ここを登れば先ほどの回廊に到着するはずですが…

トラロープが張られていたので、一応ここから回廊には登りませんでした。

そういえば至る所にキケンという張り紙が付けられていたので、いずれは立ち入る事もできなくなるのでは?と少し心配になりました。

再び外へ出て、最後に全体の写真を撮っていると…

おや?何気に先ほどの洞窟の穴を眺めていましたが、その右隣の岩肌にぽっかりと別の穴が確認できました!

よく見ると、はっきりとした空洞というか岩窟状になっており、あそこに入るには崖を登らなければなりません。

穴の下を見ると行けなくもないので、ここは思い切って潜入する事にしました。

これがその穴ですが、よじ登らなければ中を見る事ができません。

そして思い切ってよじ登って見ると、そこには小規模ながら岩窟状になっていました。

大きさは先ほどの無頸観音より広い空間ですが、奥行きが短く薄暗い岩窟になっていました。また、残念ながら石仏や祠のようなものは安置されていませんでしたが、かつては何かを祀っていたり行者が籠りそうな雰囲気は十分に感じられます。

しかし入口付近に注目すると…

何やら仏像を乗せる台?のようなものが確認できました!

はっきりとは分かりませんが、明らかに自然の石ではなく、人工的に作られた石がそこに置かれています。ひょっとしたらこの岩窟もかつて何か祀られていたのかもしれませんね。

本当ならきちんと岩窟に潜入しようと思いましたが、足場が悪く断念しました。しかし岩窟の中を覗けた事には満足です。

あの台みたいな石は何だったのでしょう?

左下り観音までの道のり

さて、いきなり左下り観音を紹介しましたが、ここまでの道のりを紹介します。

まず、県道23号沿いに左下観音入口という看板があるのでそこに入りましょう。

入口は広く、ここも駐車スペースがあるので停められます。

左下り観音までの道が続きます。ここから左下り観音までは歩いて10~15分くらいかかります。

暫く進むと、左下り観音はこちらの案内看板が立てられていますが…

P(駐車場有り)!という看板も立てられ、マジか…ってなりました。

引き返すのも面倒だったので、ここは歩いて行く事にしました。

調べておけばよかったな。

写真を撮るのを忘れましたが、暫く歩くと確かに広いスペースがありました。車で来られる際は奥の駐車場まで進みましょう。

そして駐車場からは本格的な登山道になりますが、特に危険箇所は無く、すぐにたどり着くので心配いりません。

奥の駐車場からおよそ3、4分で左下り観音に到着します。

麓から登ってもいいですが、車でお越しの方は奥の駐車場まで進みましょう。

会津に来たらさざえ堂も見学しよう

左下り観音からさほど離れていない会津若松市には国指定重要文化財に指定された「さざえ堂」が有名です。

飯盛山に建立された高さ約16mのお堂で、正式名称は円通三匝堂と言われ、姿の通り六角三層お堂になっています。この堂宇の特徴は正面から入ると螺旋状のスロープを登る形になり、最上階まで行くとそのまま降りの螺旋状のスロープに繋がり、なんと!登りとバッティングする事無く一方通行で登り降り可能な珍しい構造になっています。

まるでからくり屋敷のようなこのさざえ堂は世界にも珍しい構造と認められ、その独特な建築物から平成8年にめでたく国重要文化財に選ばれたそうです。

実際に登ってみると、どこにでもある螺旋スロープですが、いつのまにか降りになり、一向にすれ違わない事が奇妙に感じ、一体全体どうなっているのか?本当にからくり屋敷に入ったような感覚で楽しめるお堂でした。

周辺には清らかな川が流れる厳島神社や白虎隊に関する資料館など見どころが多く、お土産屋も充実しているので、立ち寄られることをおすすめします。

最後に

いかがでしょうか。

左下り観音は修験道の為に建てられた他、禅宗様式の堂宇でもあったと書かれ、更に向きも北から東へ変えられたなど、変遷の激しい歴史を込められた建造物です。

山奥の巨大岩壁にひっそりとたたずむ堂宇ですが、実際に目の当たりにするとその存在感は大きく、建造物でありながら岩窟に繋がる構造も見事でした。

山奥にあるものの近くに駐車スペースがあり、気軽に見学する事が可能なので、ぜひ訪れてみてください。