晴れと雨が交互に訪れる5月初旬、この日は運よく快晴の日に当たり、いてもたってもいられないので山を登る事にしました。
訪れたのは日光に近い宇都宮市にある岩山の古賀志山で、山頂からは日光連山の景色が素晴らしく、登山道はハイキングレベルから上級の鎖場まで幅広く、低山とは思えないスリルを味わえる山として知られています。
ルートの多い古賀志山を今回は古賀志山南登山道駐車場から古賀志山、御嶽山、赤岩山の三山を縦走し、下山後は日本遺産に指定された石の里、大谷の町を巡る事にしました。
- 古賀志山とは
- 今回登った登山ルート
- 古賀志山南登山道駐車場~古賀志山山頂
- 古賀志山山頂~御嶽山山頂
- 御嶽山山頂~赤岩山山頂
- 赤岩山山頂~3つの岩窟と滝巡り
- 下山後は大谷の町を巡ろう
- 古賀志山のアクセス、駐車場
- 最後に
古賀志山とは
古賀志山は宇都宮市の北西部に位置する標高582mの山で、栃木百名山及び日本百低山に選ばれています。麓から眺めると独立峰に見えますが、古賀志山、御嶽山、赤岩山の三つのピークから成り立ち、これらの山塊をひとまとめで「古賀志山」と呼ばれています。山中には巨大な岩壁や岩窟が多く、古くから信仰の山として神聖視され、道中には至る所に信仰登山の跡を見る事ができます。また、展望も良く、特に御嶽山山頂からは男体山、女峰山の雄姿と大真名子、小真名子を合わせた日光連山の光景が何とも素晴らしい。
更に低山ではあるものの、御嶽山から赤岩山の間は危険な鎖場や岩場が多く、スリルを味わえる登山道になっており、ハイキングレベルから上級まで幅広い難易度がそろっているので、自分に合ったルートを選ぶことができます。近年は巨大な岩壁をクライミングスポットやパラグライダーの施設を開き、レジャースポットとしても人気を呼んでいます。
今回登った登山ルート
一番下の古賀志山南登山道駐車場から古賀志山山頂を目指し、その後、御嶽山、破線コースを歩き赤岩山山頂へ。最後は一気に下らず、滝神社へ向かいました。(緑色の線は歩いたルート)
古賀志山南登山道駐車場~古賀志山山頂
古賀志山南登山道駐車場に到着しました。
周囲を見渡すと田畑が広がり、朝早くから畑作業を開始している人がいました。なんだかのほほんとした風景です。


駐車場のすぐ隣から歩いて行きます。
最初はアスファルトの緩い登りを登っていきます。
いきなり分岐点で右に行くと瀧神社一の鳥居があり、登山道というか参道が続きます。基本どちらからでも行けますが、行きは道路を選びました。


暫く進むと古賀志山登山口の案内看板が出てきます。看板に従って進みましょう。
看板に従って歩いて行くと、祠がありました。
祠は三基あり、古賀志山、御嶽山、湯殿山と書かれ、なるほど、古賀志山のそれぞれのピークの山の神様が祀られています。遥拝所みたいなものでしょうか?
湯殿山と書かれているので、出羽三山の神々を祀っていると思いましたが、どうやら湯殿山の神様だけ関りがあるみたいです。後ほど向かいますが、湯殿山の由緒には赤岩山の麓にある岩窟から流れる霊水を湯殿権現に見立てた事から湯殿山になったと思われます。恐らく赤岩山周辺の岩窟を開いた行者が湯殿山を崇敬されていた為だと思いますね。ちなみにこの祠の後ろには湯屋があったらしく、明治32年から明治43年まで温泉を営んでいたそうです。


さて、三山の遥拝所を後にし、ここから本格的な登山道に差し掛かります。
最初の内は緩やかで、時折幅の狭い川を渡る登山道が続きます。
そしてすぐに分岐点に到着します。左に行くと不動滝、更に進むと別の岩窟と滝に繋がるコースです。
私はまず古賀志山方面に向かいたいので、右のコースへ進みたいと思います。
分岐点から暫く進むと、ご覧のような巨大な岩壁が見えてきます。幾度も岩壁が続き、古賀志山が岩山である事を分からせてくれる光景です。
徐々に角度も増し、登山道には大きな岩が現れるので、歩く際は注意しましょう。


木々に注目すると、可愛らしい絵が描かれていました!
どうやらこれは地元の小学生の作品で、古賀志山に対する思いや自然環境を大切にしましょうと言ったメッセージが込められた絵になっています。このような絵を見ると、自分も初心に帰らなければならないという事を分からせてくれます。
岩ゾーンを越えると、少しまともな道になりますが、まだまだ急な登りが続きます。相変わらず絵が木に取り付けられています。子供たちもこの登山道を登ったのでしょうか?
登山道の途中に岩窟を発見しました。
帰りに岩窟巡りをしたかったのですが、この岩窟はすぐ近くにあるみたいなので、少し立ち寄ってみました。
アルマヤ堂跡と書かれていますね。
近づいてみると、これはなかなかの大きさを誇る岩窟が出現します。
堂跡と書かれていたので、以前は堂宇が建てられていたのでしょうか?
奥には祠が一基あり、祠から先は行き止まりになっています。しかし奥行きがそこそこあり、奥はうす暗くなっています。
手前には開山の碑と石仏が安置されていました。これは不動明王ではないですね?
さて、アルマヤ堂跡を後に進んでいくと分岐点に到着します。分岐点から先は御嶽山と古賀志山に分かれる道になります。
ここは先に古賀志山方面へ進みましょう。
分岐点から先は特に急登は無く、尾根道が続きます。
再び分岐点に差し掛かり、この分岐点を越えるとすぐに古賀志山山頂に到着します。
そして遂に古賀志山山頂に到着!
古賀志山は三つのピークの中で一番標高が高く、582m地点です。標識手前には三角点があります。
古賀志山山頂には電波塔が建てられています。テレビの電波塔かな?と思いましたが、どうやら携帯電話の電波塔らしいです。それにしても円盤のようなユニークな形をした電波塔ですね。なんだか遊園地のアトラクションのように見えます。
山頂の周囲にはベンチが設けられています。残念ながら展望はほとんど無く、ここでは休憩をするにはちょうど良い広場になっています。
とはいうものの、展望は少しあり、平野部方面を望む事ができます。
古賀志山山頂~御嶽山山頂


さて、最高峰の古賀志山まで到着したので、これから御嶽山、赤岩山方面へ向かいましょう。先ほどの分岐点まで戻りますが、御嶽山までは鎖場が数ヶ所あるので注意が必要です。
鎖場はトラバース系と登りの二種類ありますが、そこまで危険を有するものでなく、簡単な鎖場です。この辺りはサクッと進めます。
ハシゴも登場します。
大きな岩に取り付けられた謎のハシゴ。ハシゴは別にいらないですね。
ハシゴを登り終えるとすぐに御嶽山に到着します。展望所の手前の岩場に祠と標識があります。標識には弘化3年(1846年)に御嶽山から勧請されたと書かれています。先ほどの岩場や岩窟と言い、やはり山岳信仰の山として開かれていたんですね。
そして展望所に到着。
目の前には日光連山の大展望が広がり、この日は雲一つない快晴だったので、文句なしの絶景でした!
中央の高い山は左から男体山、大真名子、小真名子、女峰山が並んでいますが見事な山容ですね!本当は男体山の隣に太郎山があり、大真名子、小真名子で見えませんが、それでもこの光景は絶妙です。
少し拡大するとこんな感じ。
男体山の左奥の白い山は日光白根山です。
こちらは標高2578mと、北関東以北最高峰の山で、5月ですがまだまだ雪を被っていて神々しい姿になっています。
日光白根山から左に視線を向けると、皇海山も見えました!
真ん中の尖がった山が皇海山です。あの山は百名山の中でも日帰り困難で、難易度も高い山です。
麓の方もよく見えますね。
拡大すると田んぼの様子や走っている車までよく分かります。
北方面は高原山の姿がよく見えます。
標高は2000m未満ですが、山容が八ヶ岳に似ているのは気のせいでしょうか?
ちなみに高原山の右奥には那須岳が見えます。あちらもまだ雪が被っていますね。
御嶽山山頂~赤岩山山頂
御嶽山の景色を十分に堪能したので、次は赤岩山を目指しましょう。
看板には危険!と書かれており、ここから先は岩場や鎖場が登場します。先ほどの鎖場とはレベルが違うので、行かれる際は十分に注意しましょう。
緊張の中下っていくと、展望の開けた箇所に到着します。
見ての通り、断崖になっていますが、平野部の景色が素晴らしいです。
その後は下りが続き、徐々に狭い道になります。心なしか踏み跡らしきものも少なく、こちらの道はあまり歩かれていない様子です。
そして鎖場に到着しました。
見上げるほど高い岩壁に鎖がぶら下がっています…
今までの鎖とは違い、ここは難易度が高く、一筋縄では行かないですね。
上まで登って、真横に移動するこの場所が怖い!
写真では分かりませんがほぼ垂直になっています。
その後も暫く鎖は続き、先ほどのハイキングレベルとは違い一気に高難易度の山へと変化します。ギャップが凄い…
さすが岩山!奇岩や怪岩も多く、このような岩が途中登場します。
ふと眺めると、奥に筑波山も見えました!
黄砂の影響があまりなかったので、この日は何とか眺める事ができました。
その後も岩稜歩きは続き、岩稜、時々絶景が繰り返される登山道をひたすら歩きます。
一体全体、私は何の山を登っているのだろう?と、思うくらい困惑しています…
まぁ岩場や岩稜歩きは個人的に好きなんで、いいんですけど。
そんなことを思っていたら、核心部に到着しました。
この鎖場は妙義山レベルといってもいいくらいの難易度でした。
なんと、地面が見えない鎖場になっています。ここはミラーレスをザックにしまって下りました。
何とか下りて見上げてみる。
ホールドも乏しく、力任せで下ってしまいましたが、かなりしんどい鎖場でした。登りなら怖くありませんが、下りは本当に怖かったです…
登り終え、先ほど下った岩場が見えます。
あんな所を下りたんですね…誰かがあそこを鎖で行き来するところを眺めてみたい。
核心部を過ぎてもまだまだ岩稜は続きます。
ここから先も鎖場は登場しますが、そこまでのレベルではないので安心して進めます。
暫く進むと、謎のネットが現れます。
倒木防止の為でしょうか?
最後にトラロープ付きの岩場を登ると赤岩山に到着します。
そして遂に赤岩山山頂に到着です。
標識が妙に綺麗なのが気になりますが、展望はほとんど無しです。
と言っても、隙間から高原山のみよく見えます。裾野が広く立派ですが、あれで2000m未満なんですね。
赤岩山山頂~3つの岩窟と滝巡り
さて、赤岩山にも登頂したので、これから下山します。
山頂から少し戻った所に白いテープのようなものが取り付けられているので、そこから下っていきます。しかし、この目印が分かりにくく、最初は分りませんでした。ここはアプリの地図に頼りたいところ。
ここから先の下りはあまり歩かれていないのか、踏み跡も少なく、一瞬戸惑う箇所も見られるので十分に注意しましょう。


暫く歩くと、謎のハシゴが現れます。
下を覗くと高さもそこそこあり少し緊張しますが、ハシゴはしっかりしているのでここは難なく下る事ができます。


下って見るとそこには巨大な岩窟があり、中には石祠と奥を覗いてみると岩から水がコンコンと流れている様子が分かります。しかも水量が多く、岩窟から下は川のように流れていました。岩窟から川が流れている光景は今まであまり見たこと無いような気がしますね。
遠くから見ると、岩窟上部には巨大な岩が挟まっているようになっています。これはなかなかの光景です!
更に下っていくと、これまた大きな岩壁とその手前には石仏が数体安置されています。
石仏が安置された場所は小屋のようになっていますが、こちらには元々常火堂があったらしく、出羽国羽黒山寂光寺から常火切火免許を授けられこの地にも常火堂を建てたそうです。出羽三山は湯殿山、羽黒山、月山の三山から成り立ちますが、その中でも湯殿山は総奥之院と言われるほど別格な場所とされています。湯殿山のご神体は湯が涌き出る岩で、非常に神秘的な姿を成し、実際に裸足で歩く事ができます。しかし裸足で歩くにはお祓いを受けなければならず、今でも厳重に守られています。登山口に赤岩山を湯殿山と名乗られていたのも、先ほどの水が流れる大日窟を湯殿山のご神体にちなみ、湯殿権現と称した事から湯殿山になったと思われます。つまり、出羽修験の影響を受けていた事になりますね。
ちなみに常火堂が建立された時には不動明王が一緒に安置されたと書かれていますが、現在は不動明王らしき石仏は見当たりませんでした。
大日窟、常火堂跡を後にし、帰りは滝神社方面へ歩いて行きます。
ここから先は巨大な岩壁に沿いながら進んでいく形になります。
そしてすぐに荒沢瀧という場所に到着します。
巨大な岩壁を沿うように流れ落ち、滝は二段の滝になっています。壁の奥から流れているので、少々うす暗くなっていますが、左に忌竹と注連縄、紙垂が取り付けられ、今でも崇敬されている様子が分かります。
滝壺周辺には首のない不動明王像が安置され、やはりこの滝は行の為の滝である事も分かりますね。
荒沢瀧を後にし、更に進んでいくとこれまた巨大な岩窟を発見しました。
岩窟の入口にはお社が鎮座し、奥に注目すると岩窟ながらため池になっていました。池というより水たまりになっていて、深さもほとんどありませんが、こちらの岩窟も奥から水が湧いている様子です。


お社の左奥にも小さな穴があり、そちらには石碑が建てられています。
この岩窟には弁天、天狗、風神雷神がそれぞれ祀られ、現在お社は一社だけですが、かつては三社あったそうです。しかし由緒には弁天、天狗、風神雷神は元々別の場所で祀られていたものをこの岩窟に移動された書かれ、本来はこの岩窟には最初何も祀られていませんでした。


岩窟の奥にはため池があり、訪れた時にはいかにも神仏が祀られていそうな雰囲気が漂っていました。弁天が一番最初に移動されたと書かれていましたが、恐らくここを訪れた人が何かを感じ取ったからこそ、続けて天狗や風神雷神も祀られたのでと思われます。
現在は残念ながら一社のみ残されており、中を覗くと弁天、天狗、風神雷神の像が祀られている様子が分かります。恐れ多いので像の写真は撮りませんでした。


一番の見どころである滝神社の手前に女瀧という箇所があります。
この滝は滝神社の男滝と対を成す滝で、岩窟の上部から流れ落ちる滝になっています。
岩窟自体は小さく滝もそれほど大きくありませんが、この滝は裏から眺められる滝で、私の好きな裏見の滝になっていました。
この女瀧には先ほどの岩窟にある天狗がかつて祀られていた場所で、落木の為に天狗宮が破損し、先ほどの岩窟へ移動されたそうです。
現在はお社の跡は一切見られませんが、岩壁に注目すると壁と一体化しそうな石仏が残されていました。天狗ではなさそうですが、これは一体何でしょうか?
そして岩窟巡り最後の場所で、最大の見どころである瀧神社に到着しました。巨大な岩壁の手前には大きな瀧神社のお社があり、岩窟の入口全体を覆うほどの規模になっています。近づいてみると、お社はかなり大きく、下手すれば一般の神社の本殿くらいの大きさと変わらないかもしれません。


お社は色褪せていますが、よく見ると朱塗りになっていて、周囲も立派な彫刻で施されていました。瀧神社は日光の滝尾神社から勧請された説と、大杉を御神体とした祭神である中島唐沢ノ彦神とする説があり、岩窟のすぐ隣には大きな雄滝がある事から、どちらかというと滝尾神社から勧請された説の方が納得いきます。
また、お社は何度か破損され、移動された時期もあったそうですが、現在もお社は立派な姿を保ち、今でも祭儀が受け継がれているとの事です。
余談ですが、瀧神社での祭儀終了後は高盛飯(モッキリメシ)をいただく行事があります。これは山伏が山盛りに盛ったご飯を持ってきて、「食え、食え!」と金剛杖で責めたてる日光修験の伝統行事です。大盛飯を無理やり食わせるという、ご褒美なのか修行なのかよく分からない行事ですが、日光では今でもこの伝統行事が行われているそうです。
ちなみに、岩窟は意外にも奥深く、最奥には石碑が二基あります。
お社ができる前は岩窟の中で祭儀が行われていたのでしょうか?気になるところですね。
下山後は大谷の町を巡ろう
下山後は、日本遺産に認定された大谷へ向かいましょう。
大谷の町では江戸時代から採石が始まり、明治に入ると採掘産業として本格化し、近代日本の都市化の礎となり、いつしか採石場が増加し、町には次々に石材店が開かれ「大谷石」という名で有名になったそうです。
また、町を見回すと、巨岩や奇岩が至る所に点在し、かつての採石場跡も多く見られ、石でできた建造物やインテリアまで展示され、石と共に歴史を歩んできた町である事を分からせてくれます。
大谷まで来たら大谷公園周辺の散策がおすすめです。大谷公園はかつての採石場を観光客が楽しめるように工夫が施された公園で、公園には大谷石100%で造られた平和観音があり、観音様の上部まで登る事ができます。また、近くには日本最古の石仏が安置されている大谷寺があり、堂宇が巨大な岩壁に飲み込まれそうな景観は見る者を圧倒します。
時間に余裕があれば大谷資料館も訪れてみましょう。
大谷資料館は地下にある採掘場跡を観光の為にリノベーションし、資料館として開かれた場所です。一般の方には秘密で「未知の空間」とまで言われた大谷最大の地下採掘場を実際に目の当たりにする事ができます。
また、単なる採掘場の紹介だけでなく、カラフルなライトアップやインテリアまで設置され、訪れる人に楽しんでもらえるように工夫されているので、ここは訪れる価値あり!です。
古賀志山のアクセス、駐車場
アクセス
東北縦貫自動車道宇都宮ICから車で約17分。
登山口には無料駐車場が完備されています。
駐車場


登山口には無料駐車場と簡易トイレが完備されています。
駐車場とトイレは24時間利用可能です。
最後に
古賀志山は低山ながらバリエーション豊かなコースが揃った山でした。
山全体が岩で覆われている為、岩場も多く時には難易度の高い鎖場も登場するので、無理せず自分に合ったコースを選択しましょう。
また、中腹にある岩窟や滝は迫力のある景観を成し、危険箇所もほとんどないので、登山がてら立ち寄る事をおすすめします。
下山後は、石と共に歴史を歩んだ大谷の町の奇岩巡りを行ってみてはいかがでしょうか。