筑波山を無事に登り終え、まだまだ時間があったので、以前から気になっていた神社である、たばこ神社を訪れました。
たばこ神社という珍しい名前の神社は、筑波山の隣に聳える足尾山の更に隣に位置する加波山の山中に加波山神社の摂末的な存在で鎮座されています。
たばこ神社の歴史は浅く摂末社のような存在ですが、加波山神社の年間祭典の中には”きせる祭”という巨大なきせるの神輿を担ぐ、珍しい祭りも行われています。
下調べをせずに、たばこ神社という珍しい神社のみ参拝しようと思いましたが、この加波山は筑波山、足尾山と共に常陸三山の1つとして数えられ、歴史もかなり深い山である事が分かり、たばこ神社にみならず、加波山神社の歴史にも触れながら加波山を登りました。
なので、今回は珍名神社であるたばこ神社と共に加波山神社について紹介したいと思います。
加波山のアクセス
北関東自動車道桜川筑西ICから車で約20分
筑波山神社からは車で約30分
加波山神社桜川里宮の目の前に参拝者用の無料駐車場があります。
登山する方もこの駐車場を使いましょう。
常陸三山の1つ加波山とは?
加波山は筑波山、足尾山と共に常陸三山の1つに数えられ、標高は709mと三山の中では筑波山の次に高い山です。
加波山という名前の由来は、神が集まる神場山、神の庭である神庭山がなまって”かばさん”と呼ばれるようになり現在の山名に変化したそうです。
神が集まる場所と言われる通り、山中には数々の巨岩や奇岩があり、至る所に社や祠などが点在し、いかにも信仰の山である事を感じられる山です。
信仰の山としての歴史も長く、ヤマトタケルが東征の際、加波山に立ち寄って社を建て、後に加波山天中宮が創建された事から始まり、その後は熊野信仰とのかかわりもあり、新たに、新宮・本宮の二社が創建され、一大の山岳霊場として発展されました。
その後は文殊院という別当寺院が三社を管理され、いつしか七百余の神々を奉る霊場になり、また、加波山大権現という名を称して、多くの人々から篤い崇敬を受けられたそうです。
しかし、明治以降は神仏分離令により寺院は廃止され、加波山神社と改められ、天中宮、新宮、本宮の三社として現在も多くの方に参拝や登拝が行われています。
加波山神社の全体図
加波山には今も七百余の神々が奉られている通り、地図には多数の神社が建てられています。
特に山頂付近には小さいながら立派なお社が多数あり、その他参道にも祠や磐座を確認する事ができます。
この地図は里宮で由緒書きと共に無料頒布されているので、登山前の参拝がてら手に入れましょう。
全て手書きで書かれていますが、細かく書かれていて使いやすかったです。
加波山の一合目のお社
加波山神社桜川里宮
さて、サクッと加波山について触れましたが、一合目の神社等を見てみましょう。
参拝者用駐車場のすぐ目の前にある神社が里宮にあたる、加波山神社桜川里宮です。
この里宮は明治以降に建てられたお社で、山頂まで足を運べない人が少しでも加波山の御神威を受けるために建てられたそうです。
鳥居を潜ると正面には立派な社殿が見えますね。
明治三十四年にこの桜川市真壁町長岡に社殿が建てられたそうですが、それにしても装飾が立派で、まるで東照宮のような印象です。
御祭神は天中宮の天之御中主大神を中心に加波山本来の神々が祀られており、険しい登山道を登らなくてもここで加波山の神々に祈りを捧げる事ができます。
加波山を挟んでちょうど反対側にも石岡里宮があるそうですが、登山道はこちらの里宮からのみ出ているそうなので、恐らく参拝者はこの桜川里宮の方が多そうですね。
普明神社拝殿
桜川里宮の手前にも実はお社があり、加波山普明神社という名の神社があります。
桜川里宮より境内は狭いですが、こちらにはたばこ神社に関する資料が展示されています。
鳥居を潜ってすぐとなりにこぢんまりとした資料館、その名もたばこ資料館という名の資料館です。
たばこ神社という珍しい名の神社も加波山の中に建てられており、先ほどの地図の中にも山頂付近には「たばこ神社」と書かれています。
由緒にはこのたばこ神社に関することは触れられていませんが、加波山神社の年間祭典の中に9月第一日曜日に”きせる祭”という祭典があります。
このきせる祭は巨大きせるの神輿を山頂のたばこ神社まで担ぎ上げ、たばこ神社本殿に供え、たばこの徳と健康長寿を祈願する祭だそうです。
そのきせる祭に使用される巨大きせるがこの資料館の中に展示されています。
長さ2.6mの巨大きせるが目の前にあり、実際にこのきせるを担いで登るそうです。
説明書きにも書いてありますが、担ぐ時にはきざみ煙草をつめて、実際に火をつけて煙をたきながら担ぐそうで、写真にもその様子が映っています。
恐らく巨大きせるを神輿代わりして担ぎ上げるこのお祭りは類を見ない祭典であり、たばこを吸わない私にも非常に興味が湧き、実際にその光景を見てみたいと思いました。
ただ、たばこに健康長寿っていうのがちょっと…
加波山三枝祇神社本宮拝殿
普明神社の更に手前には村社の加波山三枝祇神社本宮というお社があります。
先ほど話した通り、本宮と新宮は後から建てられたお社で、明治以降は三枝祇神社本宮、親宮という名前になり、加波山神社の許可を得て、神社名の前に”加波山”が付けられたそうです。神社名の前に山名が付くなんて、なんだか寺院の名前みたいですね。
正式名称は加波山三枝祇神社本宮ですが、通称は加波山神社本宮、加波山神社、加波山本宮とも呼ばれているそうです。
神社名が本宮と書かれていますが、拝殿には合祀殿と書かれ、本宮と親宮の神様を拝む社殿という事になっています。
御祭神は熊野大神を祀られている事から、やはり加波山は熊野信仰とのかかわりも深い山だと思われます。
こちらの神社も桜川里宮に負けないくらい立派なお社で、特に境内の造りが少し変わっています。
鳥居入口から拝殿の間に川が流れ、更に社務所から神楽殿、拝殿に至るまで渡り廊下で繋がっていました。
渡り廊下は後から取り付けられたのか分かりませんが、神楽殿を通って拝殿にたどり着くのはなかなか面白いです。
また、拝殿には大きな天狗も掲げられており、加波山も天狗の山である事がよく分かります。
二合目~九合目
一合目から三合目まではひたすらコンクリートの道を歩き、二合目には不動明王を祀るお社があります。
鳥居を潜ると鬱蒼とした森に入り、鳥居から歩いて少しのところに寝不動尊を祀るお社が見えてきます。
寝不動尊とはどんなお不動様でしょうか?
残念ながら寝不動尊像を見ることはできませんが、境内には別の不動尊像が安置されていました。
三合目手前に着きました。
ここは新宮道と本宮道の分岐点になり、真っすぐ向かう道が新宮道になります。
ちなみにあちらが本宮道になるそうですが、かなり鬱蒼とした道になりそうですね。
二合目から五合目くらいまではこのような車道を登っていきます。
振り返ると、僅かですが関東平野を一望する事もできます。
五合目手前でしょうか?
地図に書いてある通り、採石場がありました。
登山道から少し外れた所から眺める事のできるこの採石場は、現在でも採石が行われているらしく、ブルドーザーも置かれています。
つまり、加波山は信仰の山と同時に鉱山でもあったのです!
道理で先ほどの里宮周辺には石材店が多かった訳ですね。
現在は主に花崗岩の採石が行われているようですが、かつては様々な鉱物なども発掘されていたのではないかと思われます。
こういう採掘の山は古くから篤い崇敬を受けていた事が多く、埼玉の武甲山も信仰の山と同時に鉱山の山としての歴史を積み重ねてきた事は有名です。
水たまりも見えますが、そういえば、以前北木島に訪れた時に見た採石場は「石切りの渓谷」という、採石場の中にエメラルドグリーンの湖があった事を思い出します。
まぁあれは規模が違うというか規格外の大きさの採石場でもあったので、あのような光景が見られたのだと思います。
北木島は以前訪れた瀬戸内海の島です。
興味のある方はこちらの記事をご覧ください↓
採石場から暫く登ると、五合目の案内が出ます。
この辺りから車道も終え、本格的な登山道になるので気を引き締めましょう。
地味な登山道を登っていくと、○合目の石碑が時折現れます。
八合目と九合目の間に一瞬車道に出ますが、山頂を目指すには真っすぐ進みましょう。
そして九合目を過ぎると鳥居が見えてきます。
ここを進むと、いよいよ山頂直前である奥宮に到着します。
鳥居を潜り、階段を登りきると、立派な社殿が姿を現します。
お社は2つあり、左側が加波山神社の奥宮で、その右には三枝祇神社親宮があります。
奥宮は大体こぢんまりとしたお社ですが、こちらの奥宮は先ほどの麓に鎮座された社殿並みに派手な造りになっていますね。
また、よく見ると大天狗とも書かれ、天狗信仰とのかかわりもあるそうです。
隣の親宮は質素な造りで、扉は閉じられたままでした。
奥宮と親宮の間に階段があります。
ここを登れば山頂に到着するので、最後まで頑張りましょう。
今までの登山道よりお社や石碑が多く、いかにも信仰の山である事を肌で感じます。
そして、登山道の左の石碑は先達の名前が書かれていますね。
恐らく加波山にも講があり、多くの崇敬者たちが祈りを込めながら登山している姿が目に浮かびます。
1つ気になるのは、登山道のあちこちに幣束が立てられている事です。
幣束は神様の依り代として、主に神前に奉られますが、このように登山道の中に複数奉られている光景は初めてかもです。
点、点と歩く度に白い幣束が目に入り、まるで修験者たちの道しるべのような、あるいは神様の通り道を示しているようにも感じますね。
果たしてこれはどのような意味が込められているのでしょうか?
加波山山頂付近のお社
加波山親宮本殿
そして、山頂付近のお社群に到着。
まず最初に親宮本殿
明治以前は新宮と言われ、熊野三山で言うところの速玉大社にあたるのでしょうか?
親宮という文字に変化した経緯は分かりませんが、速玉大社にはコトビキ岩という磐座があり、熊野信仰の始まりとされ、総本宮とまで言われています。
ひょっとしたら大元の意味で親という文字を付けられたのでは?と想像してしまいます。
社殿はそこまで大きくありませんが、立派な風貌のお社として鎮座されています。
しかし、社殿の周りは崖になっているので参拝する時は注意しましょう。
珍名神社、たばこ神社
親宮本殿から歩いて2分で、気になっていたたばこ神社に到着です。
加波山神社の由緒には、たばこ神社に関する事は書かれておらず、一体いつ鎮座されたのか分かりません。
しかし、恒例の祭典の中には先ほど書いた通り”きせる祭”という祭典が行われているので、たばこ神社も大切に祀られていると思います。
調べによると、御祭神は大山祇神、鹿屋野比売神、大国主命と、国津神系の神々が祀られており、恐らく麓のたばこ栽培農家の方々の要望によって建てられた神社ではないかと思われます。
また、玉垣にはたばこに関わる会社や組合も記載され、篤く崇敬されている事が分かりますね。
社殿にはたばこ神社という額も掲げられ、加波山と書かれている事から、認められたお社ということになります。
しかし、山頂付近に鎮座されたのはどのような経緯なのか気になりますね。
きせる祭の起源やこのお社の竣工についても詳しく知りたいです。
加波山神社本殿
たばこ神社から歩いてまた数分後に加波山神社本殿に到着です。
このお社がいわゆる、加波山天中宮で、加波山で一番最初に神様を祀った由緒正しいお社です。
御祭神は天御中主神、日の神、月の神と書かれていますが、主祭神は恐らく天御中主神だと思われます。
天御中主神は古事記の天地の初めである天地創造神話の一番最初に登場する神様であり、高御産巣日神と神産巣日神と共に造化三神と言われています。
しかしこの天御中主神、古事記の中で数えきれないほど登場する神々の中で、まさに一番最初に生まれた神でもあり、最も尊い神として位置づけられるはずが、古事記ではそれ以降、一切語られないミステリアスな一面を持っています。
西洋の神観念として考えるなら唯一絶対神的な存在となるはずですが、祀られている場所も少なく、あまり有名な神様でもありません。
というのも、我が国の八百万の神という多神教においては優劣は付けられていないのが特徴であり、神様ですら時に過ちを犯したり、悪事を働いたり、いかにも人間らしさというものを感じる存在が面白いところです。
ちなみにこのお社からは景色も良く、一部ではありますが、ご覧の通り素晴らし景色を堪能する事ができます。
ここからもう少し先の頂上にある本宮本殿からは一切景色が見れないので、この場所からじっくりと景色を眺めましょう。
ちなみに、中天宮は加波山の中でも一番尊い神様を祀られたお社ですが、実は本宮本殿よりも低い位置に鎮座されたお社です。
あえて山頂に祀らなかったのか?それとも他に理由があってここに遷座されたのかは分りません。
加波山三枝祇神社本宮本殿
天中宮から歩いて数分で本宮本殿に到着します。
本宮は新宮と同じく後から建てられたお社で、熊野の神様が祀られています。
社殿は親宮、たばこ神社、中天宮より大きく、立派な石垣の上に建てられ、こちらが一番尊い神様が祀られているようにも感じます。
地図で確認すると、どうやらこの辺りが一番標高が高く、展望は望めませんが、広々とした山頂になっています。
そして、注目していただきたいのは、山頂付近には大量の巨岩や奇岩が点在し、まるで巨大な祭祀場のような、神聖さを感じます。
登山道の途中にもいくつか巨岩や奇岩がありましたが、この一帯の岩石たちは人によって集められたようにも見えますね。
まぁそれはないと思いますが…
そして、奇岩群の先には本宮拝殿があります。
こちらは先ほどの親宮拝殿と同じような造りになっていて、扉は閉められたままでした。
本宮拝殿から一合目へ下る、本宮道という道もあり、加波山のみ登山するのであればこの登山道を下る事になります。
まぁ加波山の登山は本宮道→新宮道の順に周回するのが一般的らしいので、もし加波山のみ登山を行うのであればその順に登った方がいいかもしれません。
ちなみに私は常陸三山の1つである足尾山にも訪れたいと思ったので、加波山から縦走をしました。
加波山から足尾山までは登山道は整備されているものの、所々鬱蒼として歩きにくい箇所もあるので、行かれる方は十分に注意しましょう。
余裕があれば足尾山へ
常陸三山の最後の1つである足尾山は加波山よりも展望が良く、360度のパノラマまでは行きませんが、山頂からは筑波山を始めいい景色を眺める事ができます。
また、山頂には小さなお社がありますが、境内の広さからかつては巨大な社殿が建てられていたとのではないかと思われますが、詳しい事は分かりません。
また、周囲は城の石垣のような造りになった遺構が残され、当時はどのような姿だったのかも気になります。
ひょっとしたら加波山山頂の社殿よりもかつては大きかったのかもしれません。
景色を堪能していたら、なんと!ハンググライダーに遭遇しました。
そういえば足尾山にはハンググライダーとパラグライダーの離陸上があるみたいで、多くのフライヤーたちが空を楽しんでいるそうでうね。
奥に浮かぶ入道雲といい感じに撮る事ができました。
筑波山にも立ち寄ろう
加波山の神々に参拝した後、時間に余裕があれば筑波山にも立ち寄りましょう。
筑波山は登山だけでなくケーブルカーやロープウェイも運行しているので、少ない時間で山頂を訪れる事も可能です。
筑波山は日本百名山にも選ばれ、登山だけでなく、観光地としても有名な山で、周辺には多くの食事処やお土産屋さんも多数あるのでおすすめです。
最後に
たばこ神社をメインに訪れるつもりが、加波山の素晴らしい神々の姿に惹かれ、加波山全体を訪れる事になりました。
筑波山と同様に明治以前は神仏習合の山として開かれ、現在は加波山神社の管理下となっていますが、道中は今でも神仏の面影を感じる事ができ、いかにも山岳信仰そのものの山でした。
また、たばこ神社という珍しい名前の神社も鎮座され、加波山の歴史には関係ありませんが、このような新しい信仰を取り入れている所も見どころです。
加波山は筑波山と同じ常陸三山の1つとして、現在でも山中には多くの神々が祀られており、人も少なくゆっくりと歩く事ができるので、参拝がてら登山も楽しんでみてはいかがでしょうか。